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第六章 昏迷する民人 4


 聖女教会が派遣した傭兵と流民の混成兵。
 そう呼べば聞こえはよいが、要は賊と大差ない。混乱に乗じて声の大きなものが小さなものたちの不安を煽って先導し、感情に任せて手近な町や村を襲っただけだ。装備の充実した国軍が出れば制圧は容易い。
 ただし、多少の例外はある。
「組織立っていますね……」
 副官がアッセに囁いた。予想はしていた。だから、これは目視した上での単なる確認だ。アッセはそうだな、と、同意して、覗いていた望遠鏡を彼に返却した。
 デルリゲイリア西南部。二年ほど前に斃れたザーリハと国の境を接していた土地だ。上級貴族、カースンの領地の一角である。
 傾斜の緩やかな牧草地。川を左手に臨む砦を背に、一個大隊から連隊規模の兵が陣を敷いている。騎兵が二個中隊。左右に別れて、間にもう二個中隊規模の歩兵を挟んでいる。台形に列を成す彼らの装備はばらばらだが、前方一列と後方数列は動きが揃っている。前一列は真ん中をけん引する斬りこみ役。厚みを持たせた後方は尻たたき兼、逃走防止役といったところか。
「先方、打って構えるつもりですね」
「城館の方に兵を割いたことが知れたんだろうな」
 上級貴族カースンの一族が長らく住まいとしていた城館は、ここから馬で四半刻ほど遡ったところにある。すでに正規軍による制圧はすんでいて、アッセは王都から率いてきた軍の一部をそちらに残してきていた。
「呼びますか?」
「斥候が戻ってから決める」
 騎兵の人種構成は鎧のせいで、遠方からではわかりづらい。丘の斜度や川の深さや流れも確認しておきたい。
 ――初めての国外の旅。ペルフィリアの表敬訪問の折を思い出す。女王が信を置く、商工協会の情報屋は、そういった地理の細かなところまで、事前に調べて道案内をしていたのだった。
「合図の準備はしておいてくれるか」
 部下が伝令にアッセの命令を囁く。
 伝令が走り去る音を聞きながら、アッセは改めて遠方の敵方を見渡した。
 《光の柱》後、デルリゲイリア国内の混乱は、正規軍の巡回によってほぼ落ち着いたといってよかった。カースン家とそこに連なる一族が、マリアージュに抵抗していることを除けば。
 カースンは女王不信任を宰相に訴えて、マリアージュを一度、女王の座から追いやった上で、次女リリス・カースンを女王にと望んだ上級貴族だ。その当主夫妻は聖女教会よりレジナルド・チェンバレンを食客として国内に招いて暗躍を許した挙句、女王候補たちの誘拐を手引きした疑惑のため、カースンと縁の薄い一族のところで禁固刑に処されていた。今後のことを思えばすぐに毒杯ものだったが、マリアージュが死刑を厭ったこと、罪状の裏付けとなる調査が世情の慌ただしさで遅れていることを理由とした、親類縁者を引き離した上での幽閉処置である。
 ところが《光の柱》による、各地で起きた人の消失騒ぎが彼らの逃走を許してしまった。
 アッセたちが各地の情勢を落ち着かせるために奔走したこのひと月、彼らはばらばらになっていた縁者を集め、流民や傭兵を吸収し、西の元領地へ逃げ延びて占領した。平民たちが元領主たちの状況をろくに知らないのもよくなかった。彼らを普通に受け入れてしまったからだ。
 周囲の土地の正規軍に追い立てられるかたちで、小競り合いを繰り返しながら、カースン家は西方に逃げ、最終的に腰を据えた場所が、あの国境を睨む川沿いの砦だった。
 彼らはあろうことか、次女リリスを女王として、ここに新しい国を建てると主張している。
 領館からここまでの間にも畑があった。小屋の傍らで薪を切る親子を見かけた。
 アッセはため息を吐いた。
「巻き込まれる領民が憐れすぎる」
「陛下がおやさしいから、領土を割譲してくれるとでも思ったんですかねぇ」
「兄上が許すはずないのだがな」
 ロディマスはあれでも幼少のころから宰相となるべく厳しく教育を受けてきた男なのだ。敵対勢力に安易に領土を割譲するような真似は女王が望んでも跳ねのけるし、女王であるマリアージュは柔軟であっても甘くはない。むしろ弱い立場を綱渡ってきただけあって、ある種の老獪さを身に着け始めている。
「女王がいなくて問題になってる土地があるんだから、国を出ていきゃよかったのに」
「土着の民がいる。見知らぬ場所で現地勢力とことを構えることを避けて、ここを砦としたんだろう。……と、戻ったか」
 斥候に出ていた兵が戻り、敵勢力の状況を伝えてくる。人数や歩兵の状況はここから目視した通り。騎兵はカースン家ゆかりの兵と傭兵の混成兵。比率は後者が多い。流民はいないようだ。
 川は浅く広く、渡れないほどではない。流民もこの川を越えてきたものが多くいるのだから当然か。
 伏兵や魔術、土を掘り返した形跡などはなかったらしい。
 副官がアッセに先の問いを繰り返す。
「呼びますか?」
 増援を。
 アッセは首を横に振った。
「いや、大丈夫だろう。……歩兵、三中隊を五から七に分割。重装を前に。後列の配置は任せる。分割した兵は鈍角の楔形で中央に配置。先頭の隊は厚めに。後ろは薄めでいい」
「左右には騎兵を?」
「そうだ。左は兵を追うな。カースンを確保すると伝えろ」
「包囲殲滅。教本通りですね。……聞いたな! 整列!」
 副官の号令を受けて、伝令が素早く伏せていた各兵に指示を通達していく。丘陵の影。迅速に、しかし静かに、兵たちが所定の位置についていった。
 蒼穹の下、甲冑に身を包んだ兵たちが居並ぶ。
 アッセは馬を軽く走らせながら、彼らの掲げる剣に自らのそれを触れ合わせていく。
 きん、きん、と、金属音が規則正しく響き、精神が研ぎ澄まされていった。
 馬首を翻して立ち止まり、アッセは冬の空気を吸って、号令をかけた。
「全軍、進め!」


 換気のために開け放った窓から、頃合いを見計らったかのように、鳥が翼を広げて音もなく降り立つ。
 アルヴィナの《使い魔》だ。彼女の手のひらにするりと収まった鳥は、数枚の報告書に姿を変えた。音声を一から十まで聞かなくて便利でしょ、と、アルヴィナは笑っていたが、それはそうとう高度な術ではないのか。(とうとう人離れした魔術の腕を隠さなくなってきたわね、この女)
「カースンの件、無事に終わったって、アッセ君から来たわよ」
 窓辺を離れて報告書に目を通しながら、アルヴィナが告げる。
 執務机に頬杖を突き、マリアージュは彼女に尋ねた。
「カースンのご当主たちの確保は?」
「それはねぇ、残念な結果だったみたい」
 はい、と、アルヴィナが紙束を差し出す。打鍵したような角ばった文字の中から該当の文面を一瞥し、マリアージュは眉をひそめる。
「……砦内での死亡を確認……」
 戦況不利による逃亡を計画中に、身内で混乱があったと思われる。カースン家当主夫妻および次女を筆頭とした弟妹は遺体にて発見――……。
「遺憾だね」
 執務机を挟み、控えていたロディマスが、マリアージュの漏らした言葉を耳にして、渋い顔で呟く。
 どのように、誰によって、彼らは主神の御許へと招かれたのか。それをロディマスは尋ねなかった。彼が言葉通りの思いを抱いているのか。それとも果たして本当に、カースンの一家は身内の諍いで倒れたのか。
 これでこちらに反目し、かつ、聖女教会と最も深く繋がっていた一家は消えた。残りの中立派や浮足立った派閥も女王の婚姻政策でもって静観の立場を取るだろう。
 マリアージュは深く吐息した。
「メリアを呼んで頂戴」
 元女王候補、カースン家長女メリア・カースンは一家の他の者と異なり、王都の預かりとなっていた。テディウス縁の家に軟禁されている。
「彼女にご家族の死を君が伝えるのかい?」
「えぇ」
 ロディマスの問いにマリアージュは首肯した。
 誰にカースンの一族が殺されたのだとしても、彼らを追い詰めた軍はマリアージュの名の下に動いたものだ。メリアに事実を伝える責が自分にはある。
「あら?」
 アルヴィナの声にマリアージュは面を上げた。彼女はさらに二羽の鳥を室内に招き入れていた。
「窓が開くの待ってたのかしらねぇ。物質透過も組み込むべき?」
「鳥にあんまり怪しい動きをさせないでよ。……どこからの連絡?」
「ヤヨちゃんとブルーノ君」
 ヤヨイはアルヴィナがどこからか引き込んだ魔術師だ。女王勅命で侍女に任官してダイの傍に付けている。まだルグロワ市にいるはずだ。ブルーノはダイの化粧品を揃えているオズワルド商会の当主で、ダイの出発に先駆けてゼムナムへ遣いに出していた。ゼムナム宰相サイアリーズの目でもある商人、アーダム・オースルンドと昵懇だからだ。
「ダイたちはルグロワ市を出るみたい。いえ、もう出た、かしらね」
「読むわ。貸して」
 マリアージュはアルヴィナから紙束を半ばひったくった。
 《光の柱》前後の顛末は先に報告を受け取っている。今回のものはクラン・ハイヴ側とドッペルガム側と《国章持ち》の名の下で調整した幾つかの誓約や、新たに分かったペルフィリアの現状、ダイ以下四名がデルリゲイリアから、ドッペルガムの筆頭外務官、《国章持ち》ファビアン・バルニエ以下三名の計七名が大陸会議名義の使節としてペルフィリアへ発つこと。最後にダイの秘書官アレッタを代表にし、ヤヨイを付けてタルターザ近郊国境経由で戻らせる旨が書かれていた。
「日付は昨日?」
「ヤヨちゃんの《使い魔》なら半日ぐらいで来てると思うけど」
「早い早い早い」
「いいことじゃない」
「こっちの動きが間に合わない……」
「至急、国境領に早馬を出そう。あと、何と何の書類を揃えておけばいいんだい?」
 マリアージュは無言で報告書をロディマスに回した。あとは彼が勝手になんとかしてくれる。
「最後のブルーノからのは?」
「あら、あちらの誰かさんからの親書付きよ」
 鳥はしばらく姿を変えず、脚に括りつけられた銀筒が、アルヴィナによって丁寧に外されるまで大人しくしていた。
 ダダンと行動を共にした半年でマリアージュも初めて知ったのだが、魔術が西より廃れている他大陸では《使い魔》に替わって普通の鳥を伝書に使うことが一般的で、特に商工協会は普通の鳥と魔術具と並行運用しているらしい。ブルーノもアルヴィナからの鳥をその類と勘違いして受け取り、鳥に直に口述せず、したためた文書を直に持たせたらしかった。
 添付の文書はブルーノではなく、サイアリーズからのものだ。ふたりの商人を介した要請に関して承諾した、と、書かれている。
 マリアージュは目を瞠った。
「え、待って。無補給船でほかの女王を拾ってくるみたいなんだけど」
「西周りで国を回って? うわぁお。豪快だね」
「日取りはいつ頃を希望だっておっしゃっているんだい?」
 アルヴィナが大げさに驚きを表し、ロディマスが読んでいた報告書から顔を上げて問う。
 マリアージュは手紙を二度見して、躊躇いがちに答えた。
「……到着次第」
「到着次第? ……ちなみに実はもう出発」
「しているわね……」
 マリアージュの返答にロディマスがまともに色を変えた。
 マリアージュがサイアリーズにした要請は対面での大陸会議を企画する、というものだった。
 マリアージュたちはこれまで三度、遠隔で会議の場を持った。だが使用は月に一度、満月の日に限られて膨大な魔力――たいていは招力石で贖う――を要する上、三度目は《光の柱》のせいで各国に混乱が起き、ドンファン、ファーリル、ゼクストの三か国は不在だった。極めつけに《光の柱》が引き起こした魔力乱流のせいで、次に各地を繋げられる日はいつなのかわからないと、商工協会のリルドからは言われていた。
 しかし、自分たちには話し合いが必要だ。
 早急に。顔を突き合わせて。この混乱をなるべくよい形で決着させるために。
 ――聖女教会のことも、聖女の血筋のことも、ペルフィリアのことも、このまま放置していては禍根が残る。
 話し合うならすべてがひっくり返っている今しかない。
 が、各国そのような場合ではないというのも事実だった。マリアージュはカースンの離反が起きて、内乱一歩手前だったが、他の国でも似たようなことは起こっているはずだ。特にゼムナムはサイアリーズが伯父を支持していた残党に手を焼かされていた。だから、とりあえず、西で最も大国であるゼムナムに、ペルフィリアの女王と宰相の確保が終わった頃合いに、一度、集まれないかと、前振りをしていたのだが。
 前振りで、終わらなかったらしい。
「この鳥、ブルーノが慌てて船から飛ばしたみたいね」
 ブルーノの一行はサイアリーズの機動力に泡を食らっている間に船に乗せられたらしい。同情する。
「アルヴィナの言う通り、西周り航路で各国に寄って、女王か宰相、あるいは両方を乗せて、来るらしいわ」
 ドンファン、ファーリル、ゼクストの三か国は大陸の西部に縦に並ぶ。何らかの手段で先ぶれを出して会議の企画と要請だけを伝え、参加の可否は船の乗船で以って答えとすると。
 乱暴なこと極まりない。
「これ、皆、集まらないんじゃないの?」
「いや、そうでもないよ」
 ロディマスが肩をすくめた。
「混乱した大陸を、どこが、どう、切り分け、どのように平定するか、の会議だ。ここで欠席した影響は後々まで尾を曳く。国としての影響力を大陸内で保持したいなら、多少は無理をしてもカレスティア宰相の――いや、君の話に乗る。大陸会議には参加する」
 《光の柱》による混乱は反乱分子をあぶりだした形だ。そのまま内乱に突入してしまったなら、国を空けることはないだろうが、制圧が終わって国を預けられる人材が揃っているならどの国もこの話に噛む。
 ――女王の決定方法に刃を入れる可能性があるのだ。その冒涜的かつ神聖な権威に触れる機会をみすみす逃していれば、そのものはたいそう愚かな為政者だ。
「……ん? 西周りで拾ってくるってことは……うちの国でするってことかい?」
「……その方がましだったかもね」
 女王たちが雁首そろえて話し合いをするためには会場が必要になる。
 これまでの話の流れからすると、デルリゲイリアが穏当だ。
 しかし、サイアリーズにそのつもりはないらしい。
 嫌な予感を覚えたのか。中途半端な笑顔で口角をひきつらせるロディマスに、マリアージュはぴらりとサイアリーズの手紙を見せて解説する。
「うちには無補給船の湾港がないじゃない?」
 海に面する北方のほとんどは切り立った崖だ。岩礁や砂浜はあっても面積は狭く、小さな村が点在するに留まっている。王都から直線距離で最も近い浜まで、馬を急がせれば二日、で、着くだろうか。つまり、大型船の補給や女王たちが地に降り立って一泊できるような街も、海の近くにはなく、最大で見積もって四か国の女王と宰相とその随行を、ここに連れてくる準備を整えるだけで時間を取られる。
 それもサイアリーズをわかっていたのだろう。
 あらゆる時間と手間を惜しんで、あの女、とんでもない手で来た。
「だから、ペルフィリアに行くそうよ」
「……は?」
「ペルフィリアの王都」
 《光の柱》の日、最後に連絡をつないだとき、ダイを大陸会議の勅使としてペルフィリアに遣わす旨は、あの場にいた執政者たち、つまり、ドッペルガムのフォルトゥーナと、ゼムナムのサイアリーズには伝えてあった。
「だから、わたしたちがしなきゃならないのは、国を留守にして、内乱のど真ん中に行く準備」
「無茶苦茶だ!?」
「でも、欠席はするべきじゃないんでしょ?」
 そもそもマリアージュが発起人なのだから、ここで引き下がってはお笑い種だ。
 ロディマスがこめかみを押さえて呻く。
「……ドッペルガムと、クラン・ハイヴはどうするつもりなんだ?」
 ドッペルガムもクラン・ハイヴも内陸国だ。クランはダイの報告にもある通り、ルグロワ市を除いて麻痺している。だが、代表のイネカ・リア=エルは会議があるなら参加したいはずだ。レイナ・ルグロワの処遇のこともある。
 そのクラン・ハイヴはペルフィリアの隣国として、これから移動すればぎりぎり間に合っても、ドッペルガムはどう考えても――……。
 考えていても仕方がない。
 ダイの後を追ってペルフィリアにいくことは決定だ。
 ひとまずマリアージュたちは至急、主だった文官を集めて、留守中についての協議することになった。同時にアッセを西部国境から呼び戻させる。マリアージュに万が一のことがあったときのために、クリステル・ホイスルウィズムとシルヴィアナ・ベツレイムの二名、それから女王候補の選出に関わる者たちも呼び出した。前者の二名はまだ女王候補の権利を有しており、有事の際は次回の女王選を開くまでの名代が務まる。
 通常の政務に加わった業務に忙殺されて、気が狂いそうになりながら、幾日すぎたころだろうか。
 新たな二羽の《使い魔》を連れて、アルヴィナがマリアージュの前に現れた。
 一羽目はヤヨイからだという。
「ヤヨちゃん、デルリゲイリア国境に入ったって。ダイから預かった皆さんは必ず送り届けますって。よかったね」
「えぇ。ってことは、ダイもペルフィリアに入ったってことよね……。ダダンと合流できたのかしら」
「大丈夫でしょう。それから、二羽目の鳥、セイス君から。ドッペルガムも会議に参加するって」
 ドッペルガムの魔術師長ユーグリッド・セイスは聖女研究の過程で生まれた魔術師だけあって、腕がいい。彼もまた《使い魔》を生んでアルヴィナ宛に出したようだ。
(魔術って実は廃れてないんじゃないの……?)
 周囲にこうも強力な魔術師が揃っているとつい錯覚しそうになる。
 頭痛を堪えながら、マリアージュはアルヴィナに話の続きを促した。
「えぇっと、つまり、フォルトゥーナ女王もペルフィリアへ、行く……?」
「そういうことだね?」
「間に合うの?」
 クラン・ハイヴを間に挟む分、地理的にドッペルガムはペルフィリアから遠い。
「そこらへんは考えなくてもいいみたい。……イネカ・リア=エル議長さんたちも拾っていくって。最短距離で」
「……最短距離?」
 アルヴィナの含みのある言い方に、マリアージュは眉をひそめる。
 アルヴィナは嫣然と笑ってマリアージュに告げた。
 嫣然と笑ってマリアージュに告げた。
「わたしたちも行こうね。最短距離で。――ダイが、道を切り開いてくれているから」
「どういう意味よ?」
 聖女の絶対の守り手として、かつて名を馳せた古き魔術師は、マリアージュの問いに答えない。
 内乱真っただ中の隣国の王都に、化粧師が道を作って、女王たちで集まる。
 改めて考えると正気でない今後の予定に頭痛を覚え、マリアージュは近くに立っていた女官に薬を所望した。


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