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髪、どこだよ神


 大きくなる方法を探す、とはいったもんだけどさー。
 わからんよなー大体なんで黒マが黒マなのかわからないんだし。てか本当に黒マって一体なんなんだろうな。だから困ってるんだけど。触れるんだぜそれ幽霊じゃねーよ。
 神様じゃないことは確かだけどな!
「うーんわからん!」
 思わず呻いた俺に。
「そうか、じゃぁ俺が手取り足取り教えてやろう前に出ろ」
 数学教師が笑顔で黒板の前を指差した。クラスメイトがくすくす笑ってる。笑うな見世物じゃないぞ!
 くっそう授業中でした!!! めっそりしながら俺はよろよろ前に出た。


 二人で神社仏閣とか色々廻ってみたけど、まー手がかりなんて零よな。俺は帰りに本屋に寄ってみた。ムーとかいう超常現象を扱う雑誌を買ってみる。ついでに懐かしい幽霊掃除屋のおねーさんの漫画を買ってみる。ボディコンスーツで戦うんだぜ! 俺は子供心に巫女服の幽霊が大好きでした!
「ただいまー」
 俺は学生鞄と買ってきた本をベッドの上に放り投げながら帰宅の挨拶をした。なんで誰もいない部屋におかえり言うのってねーちゃんに不思議がられたけど。だって黒マいるもんなぁ。
 けど、今日に限って返事がない。
 部屋がしんとしている。そんで、すげー寒い。
「黒マぁ?」
 いっつもは俺お手製の炬燵でぬくぬくしてるくせに。
「おーい黒マ?」
 俺の声だけが、そっと反響する。
「黒マ!?」
 悲鳴みたいな、声だと思った。
 そしたら、黒い球体が窓ガラスをするりとすり抜けてきた。
「あ、おかえりー」
 黒マがふよふよ俺の目の前に浮かぶ。
 俺は思わず、ばちん、ってその黒マを両手で挟んだ。あれだ。まっくろくろすけを捕まえるメイちゃんみたく。
「いったぁあああああああああい!!!!」
 黒マが俺の手の隙間からにゅっと顔を出す。
「なにするのよぉおぅ!!!」
「いや、それは俺の台詞だ。どこいってたんだ?」
 ぐい、と顔を近づけて詰問した俺に、黒マは怪訝そうな顔をした。
「どこって……なんかおっきくなれる手がかりとかないかなぁって思って、私が殺された場所に行って来たんだけど」
「……ころされたばしょ?」
「うん。河川敷。今はコンクリになっちゃってるけどー」
 そこで晒し首にされたのだと黒マは言った。なんだそれこえぇええええぇえ!!!
「おまえっていろいろたいへんだったんだな」
「そぉよぉー色々大変だったの!」
 えへん、と黒マは俺の手の中で胸をそらした、んだろうな。なんか手のひらがふにゃってするんだぞ! マシュマロ潰してるみたいな感触だな! 
「黒マって胸おっきいよなー」
 黒マはみるみるうちに真っ赤になって手の中から逃げ出すと、ぐーで俺の眉間を殴った。いてえぇえええええデコピンされたぐらいの威力はあったぞ!!!!
 うおおおおおおおお、と蹲る俺の頭を、黒マはどげしどげしと蹴る。
「ばか! えっち! へんたい! はれんち!」
 そしてぴいぴい泣きながら、炬燵の中に引き篭もった。
「や、うーん。俺が悪かった」
「ばかばかばーか」
「わるか……ってうぉおおおおおおおおお眉毛ぼんってするのはやめれ!」
 眉毛がみるみるうちに滑り台に! 前が見えん!
 俺の必死の訴えを聞き入れた黒マは眉毛をもとの凛々しい形に戻してくれた。助かった。
「黒マ」
「なによぅ」
 にゅ、と黒マは炬燵から顔を出した。亀だな。
「これからどっか行くときはちゃんとメモ残しとけ」
「メモ? いいけど、どうして?」
「そりゃー突然いなくなったら心配だろー」
「でも私神様だよ。怪我しないよ」
「神様っつう部分は全力で否定させてもらうぞ」
「いい加減信じようよ」
「だが断る」
 幽霊ともなんか違う気がするけどな。
「でも心配なのは心配なの」
「どうして?」
「突然いなくなられたら、さびしいじゃん?」
 さっきはびっくりしたー。いなくなったかと思ったもんな! 
 黒マなんて手のひらサイズなのに、こいつがいなくなるだけですげー部屋が広いなって気がしたし。あーびびった。
 黒マは、その赤ちゃんの爪ぐらいの手で俺の指を握った。
「いなくならないよ」
 そして照れくさそうに微笑む。
「だって一緒にいるために、おおきくなりたいんだもの」


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