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髪、ちがうぞ神


「そもそもだな」
 じゃがりこを食しつつ週刊漫画でティータイムを楽しむ俺は、俺の目の前に浮かぶ黒マリモに声を掛けた。テニスボールサイズの黒マリモから、んー? と生返事。
「なんでお前は幽霊になったんだっけ?」
「幽霊じゃないよ神様だよ」
「こんなありがたみのない神があるか!」
 結局この間だって、眉毛だとか睫だとか鼻毛だとか腋毛だとかつまらん箇所だけ延々と伸ばすだけで、肝心の伸びて欲しい部分についてはさっぱりときた! 頭だけはつるぴかに出来るようになったよって言われても嬉しくないんだぞ!
「えー。話さなきゃだめ?」
「話せ。とり憑かれてる俺には知る権利がある」
「どうして?」
「理由が明らかになれば成仏できるもんもあるらしい」
「神様に成仏なんてないんだよ! ってか、それこの漫画の台詞のパクリじゃない!」
 ち、ばれたか。面白いんだぜ。この霊能探偵が主人公の漫画。
「いいからいえよ」
「いわないっていったら?」
「もうこのじゃがりこやんねー。漫画もみせねぇー」
「うわああぁぁぁんひどいよひどいよいじめだよぉおおぉ!!!」
「どっちがひどいんだどっちが!」
 俺の大事な頭の毛を取りやがって。手足の毛は許す。
 大体なんで幽霊だか神だかしらねぇが、マイラブ・ジャンクフードを食すことができるんだこいつは。どこに消えてんだ。マリモの中はブラックホールか。
「むかし、おねえさんを一番ひいきにしてた若旦那を、とっちゃったの」
 めそめそしながら、黒マは幽霊(自称、神)になった理由を語りだした。
「……えーっと、お前昔、遊女だったんだっけか?」
「うん。おねえさんは一番の美人で、売れっ子で。私には手の届かない存在だった。かむろ時代からずっと可愛がっててくれたの」
「あーなのにお前恩をあだで返したわけね」
「ち、ちがうもん! 旦那様が……髪が綺麗だっていって」
「髪?」
「……私の髪は、特別綺麗だって」
「はぁ」
 へー。それで報復に髪をざっくり切られて殺されたんですか。なんまんだぶ。
「わたし、器量が悪くて、いじめられてたところをいっつもお姉さんに庇ってもらってたのに」
 そりゃー怒るな。庇ってたのにとられちゃなー。
 というか気になるんだが。
「別にお前ぶさいくじゃないぞ?」
「うそぉ不細工よ! 美人顔っていうのはこーういう」
 黒マリモからにゅーっと手が出て、しもぶくれな顔を描く。おぉ。これはあれか。おかめ顔っていうやつじゃないか?
「顔のことをいうの!」
「いや。お前の顔は十分可愛い」
 黒マリモから、今度は顔が出てくる。うん。やめれ。顔は可愛いがそういう登場の仕方は貞子もビックリホラーだ。
「……ほんとう?」
 でも首を傾げてくる顔は文句なしに俺の好きなお天気お姉さんに似てたので、おお、と盛大に頷いて見せた。
「美人だ。かわいいぞ」
 つか美人の基準が今と昔かなりちがうんじゃね?
 あ、じゃがりこなくなった。
 俺は次のジャンクフードに手を伸ばした。ジャガイモは正義だ。
 ……なんか黒マリモが静かになったな。顔と手足引っ込めてふよふよ浮いてやがる。
「黒マ?」
「略さないで!?」
 にゅ、と顔が生えてくる。うん。生きてたか。
「どうした?」
「なんでもない」
 そういって黒マリモは引っ込んでしまう。変なやつだな!
 ぽてちを分けてくれないからって拗ねてんのか? あげねーぞ!


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