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髪、たかが神


 俺の一家は皆そろって髪が薄い。若くして一同カツラの世話になってるぐらいだ。呪いか? 呪いなのか? ずっとそう思っていたら、ある日本当にこれが呪いだということが発覚した。
 髪の神様の呪い。
 こう、ネトゲとかやる身としてはあれだ。顔文字でこの状況を表現したくなるんだ。こんなかんじ。
 工エエェェ(´д`)ェェエエ工
 わかったか。なんかこんな感じなんだ。こう、心の中で、えぇえぇえぇぇ、って感じなんだ。想像してみてくれ。何せ目の前に黒いマリモ(どうやら髪の毛の塊っぽいが)がぷかぷか浮かび、そこからにゅっと白い手が出て、俺に髪寄越せとか催促するんだぜ。そしてこの一家の皆の髪が薄いのは、このなんだか気色悪可愛い(だって顔が俺の好きなお天気お姉さんに似てたんだよ!)神様のせいだと来た。
 工エエェェ(´д`)ェェエエ工
 ってなるだろ。ならねぇ?
「てか、何だって髪に執着してんだよ」
「うん実は昔、私このあたりの遊郭にいた遊女だったんだけど。色んなごたごたで濡れ衣着せられて、自慢の髪の毛そられて、殺されてね?」
「どんな死に方だっつかお前神じゃねぇ自爆霊だろ!」
「アハ」
「笑って誤魔化すな! どう考えても幽霊だろそのストーリーからすると!」
「でも君私見れるなんて神様みる力があるんだね〜」
「あくまで自分が幽霊だとみとめんつもりかコンチクショウ!」
 マリモ女はにこにこ笑って言葉を続ける。
「そんなわけで、髪の毛集め続ける神様になったのでした」
「そんな神、いるか!」
「いるんだもーんここに。だから髪の毛頂戴?」
「だからの接続詞がおかしいって気づけよ!」
 神だろうが幽霊だろうが、髪はやらん!
「というか逆に返せお前! 俺の大事な髪を!」
「えー」
「返せねぇのか神の癖に」
 奪うだけ奪うだなんて神じゃねぇ。そう叫ぶと、マリモは言った。
「うーん。返すことはできるけど……」
「できるなら返せ! 早急に! イミディエタリーに!」
「そう? じゃぁ、はい」
 マリモはぱちん、と指を鳴らした。器用だな。俺できない。
 するとたちまち頭がかゆくなった。かゆさに負けて手をやると、おおぉおおおおぉなんかかつてないもさっと感がっ。
 思わず俺は鏡の前に走って頭を確かめた。
 髪! 髪があるじゃねぇか!
 ……と、髭が、ある?
「なんだこの髭!」
 そして胸もなんかもしゃもしゃうぎゃぁああぁぁぁ俺の胸に! 胸にアフロがぁあぁぁぁ!!!!
「この家の人、すごく毛根が強いらしくて、体中の体毛がとにかくすごいんだよね」
 マリモはにゅっと足を出して空中で組んだ。意外にいろぺえぇ足だな。
「だから私が髪の毛とってもそれだけ頭に残ってるの。他の人だったら確実に坊主だよ」
「そう、なのか?」
「うん」
 マリモは大きく頷いた。
「私が毛を取ってるから、胸毛とかすね下とかあとXXXXの毛とか」
「女の幽霊の癖にさらっと口にすんな萎える!」
「もう、難しい子だなぁ……」
 ぶつぶつ言いながら彼女は説明を再開した。
「だから、胸毛とかすね下とか腕の毛とか、君も男の子のわりになくて、肌つるつるでしょ?」
「たし、かに」
「私が毛を返したら、頭はふさふさだけどお髭はぼーぼー剃っても青くなる。肌も毛穴が開くからふきでものとかできやすくなるよ。腕と足もおさるさんと変わらないぐらいになるかもだけど」
「ネアンデルタール人かよ! 石器時代の人間かよ!」
「つるぴかの肌と薄い髪の毛どっちがいーい?」
 うきうきとした様子で訪ねてくる神だか幽霊だかマリモだかに。
「……とりあえず、元の状態に戻してくれ」
 俺は白旗を揚げながら呻いた。


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