髪、またかよ神
「先生さよーならー」
「おーさよーならー」
「せんせいはげー」
「うるせぇえええぇええええ!!! さっさと帰って課題やらねぇーと酷いからな!」
「きゃははははは」
高笑い上げながら下校する女生徒たちを見送って俺は溜息を吐いた。くそー女に手を上げる主義じゃないけどせめてはたき倒したいそしたら暴力って訴えられる教育委員会こえぇぇえぇ。
私立高校の教師になって生活安定してんのはいいけどなー、生徒に毎日ハゲ呼ばわりされるのってどうよ……。マッチョな同僚とかインテリ教頭にはきゅっとめがね上げながら羨ましいとか言われるけど羨ましいか? 羨ましいか? 毎日生徒に囲まれてから超からかわれるの羨ましいか? ちなみにかわうい嫁さんも嫁さん候補もいないぞ! ないちゃうぞ!
帰ってテストの採点するかなーと方向転換した俺は、じっと俺を見上げてる女生徒に瞬いた。
「なんだー? はやく帰れよー」
てか、こんな子いたかなぁ。けっこう可愛い子だ。ちょっとウェーブの掛かった、つやつやの黒髪とぱっちりおめめ。俺の好きなお天気お姉さんに似ているな。
女生徒はぱぁ、と顔を輝かせると、拳を握った。
「先生!」
「おぉ?」
その声量に思わず後ずさっちゃうんだぞ。
可愛い顔をこれでもかというほどに変態っぽく崩して、少女はきらきら笑った。
「なんて見事なハゲっぷり!」
「いや、全力でハゲを褒められてもな?」
てか、はげてねぇよ! 薄いだけだよ! たぶん……。
「そのハゲっぷり、惚れました! 付き合ってください!」
「は……? ……アホか!!」
生まれて初めて付き合ってっていわれたけどでも相手は女生徒だぞ! てかこんな公衆の面前で教師に告白すんないじめかいじめなのか!? うわぁあっちで怖い学年主任が睨んでるよぉおおおおおお!!
俺の突っ込みを全力で無視して女生徒は暴走する。
「あ! すみません自己紹介まだでした! 一年D組出席番号二十四番黒瀬真理子です! 好きなものはスキンヘッドとてっぺんハゲと磯野家父です!」
「きいてねえぇえええぇえええ!!!」
「かっぱも好きです!」
皆ハゲじゃねぇか!!!
一体何なんだ俺をからかってるのかこの生徒。くろせまり……。
「黒マ?」
「略さないでください!?!?」
……。
よし、無視しよう。
「あぁ、行かないでくださいよぅ! 黒マでいいですから!!」
追いすがる生徒をずるずる引きずりながら俺は叫んだ。
「つきまとうな!」
女の子には付きまとわれたい! でも自分の勤務先の生徒だなんてやだよ! しかもハゲ好きの変態ってどうよ俺の傷跡抉るだろ!? くろま……。
「だってすきなんですよぉおおおお」
「俺を犯罪者にするつもりか!?!?」
そもそも未成年に手だしたら犯罪なんだぞ!
「そんなつもりないです私はただハゲが好きなだけなんです愛してるんです!!」
「寄るな変態!!」
「先生!!!」
何でだ。
何でなんだ。
俺はただ安定した生活とかわうい嫁さんが欲しいだけなんぞ。
なのになんでこう、マッチョとかインテリとかオタクとかの同僚ばっかな学校で、ハゲ好きの変態生徒をずるずる引きずって歩いてるんだ?
あぁ、もうなんで俺ばっかり。
いい加減にしてくれよ。
カミサマ!