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第七章 五日目午前 1


 実家に戻って療養しては、と、下官たちがよく問うてくる。
 テウインの家は水の帝国の中でも、古く地位ある家だ。シノ自身も長女であるし、館に戻れば世話を焼くものは確かにいる。しかしシノはどうしても、戻る気にはなれなかった。ただ、帰りを待っていたかった。
「酔狂だな」
 執務室で机仕事を終えて時間が空くと、奥の離宮でティアレの部屋を整える。彼女の衣服を虫干しして、体力的に可能な限り、庭の手入れをする。そんな最中に、背後からかけられた声に、シノは苦笑した。
「何時戻られても、よいようにですわ。陛下」
 庭先に佇んでいたのは皇帝だった。皇后がこの館から姿を消しても、皇帝は休憩のたびにここに立ち寄っているようである。憔悴の色を目に見えて濃くした彼は、ティアレの部屋の方角を振り返って言った。
「ティアレは当分戻らない。そういうことは、戻る日が決まってからしてもいいんじゃないか?」
「陛下こそ、こちらにお出でになられましても、ティアレ様は居られませんよ」
「俺は、ティアレが手入れをしていた庭を見に来ているんだ」
「お寂しいと、正直に口に出されればよろしいのに」
 シノの苦笑に、ラルトが口元を引き結ぶ。少々拗ねたようだった。
 皇帝は珍しく手ぶらで、傍に咲く花を観察している。庭を愛でにきたという彼の主張は嘘ではないのだろう。
 それにしても、春だというのに花の数に乏しい庭だ。主不在の庭は、どこか寒々しく、まだ冬の最中にあるようだった。
「陛下は、何ゆえティアレ様をすぐに引き戻されなかったのですか?」
 皇帝の寂しげな後姿を見つめながら、シノは問うた。
 ティアレがエイについてダッシリナにいるのだとわかったとき、ラルトはティアレに迎えをやらなかった。体調の回復を待つこととしたのだ。無論、ティアレの体調やダッシリナの状況を鑑みればそれは正しい判断だ。
「彼女の体調や長旅の疲れを考えて、すぐに動くのは得策でないとした」
「そして方々の間諜に対しても、ティアレ様の動きが悟られぬよう、手を打たなければならなかった……それぐらいは、いくら私でもわかりますわ、陛下」
 しかし、釈然としないものもある。
 ただ、とシノは付け加えた。
「私がお伺いしたいと申していることは、何ゆえ、ティアレ様をこちらに戻すようにしなかったのか、ということでございます」
 暁の占国ダッシリナの情勢不安が確定しつつあるため、ティアレは偽装の施した馬車によって、明朝再びブルークリッカァへと戻ってくる。
 しかし、それは奥の離宮に戻るという意味ではない。
 ティアレはそのまま、田舎にある王家の療養地へと移送される。公式に、ティアレが療養しているとされている地だ。現在、奥の離宮の女官であるメイが、ティアレの身代わりとしてそちらに詰めていた。
「ティアレの体調を考えれば、こちらにいるより静養できる場に居たほうがいいだろう」
「本当に、それだけの理由ですか?」
 ラルトはシノの追求に疲れた様子を見せた。
「……お前の予想は当たっているよ、シノ」
「私の予想とは、何でしょう」
「お前はほとほと意地が悪い。この奥の離宮から黙ってぬけだすほど、ティアレを追い詰めたことに対しては、謝る」
「謝罪は私ではなく、ティアレ様ご本人に」
「そういうんだったら、そう責めた目をするな。こちらも気がめいる」
 皇帝は嘆息し、空を仰ぎ見ながら言葉を続けた。
「シノ、お前は俺にこういわせたいんだろう。今、俺は、ティアレに会いたくないのだと」
 ラルトの声音は鋭い。少しだけ彼は振り返り、覗き見える彼の双眸は酷く冷ややかな目をしていた。
 シノは頷いた。否定する必要もない。
「えぇ、陛下。貴方様は、まるでティアレ様にお会いしたくないから、健やかになられるまで保養地にティアレ様を留め置かれる判断をされたように、思えました」
 ラルトは、嗤った。明らかに自嘲の笑みだった。彼は再び空を仰いで、肩を落とした。嘆息したようである。
「俺はいつもティアレと共にありたいと思っているよ」
 彼は言った。
「けれど同時に会いたくない」
「何故ですか?」
「ティアレに泣かれることほど、俺にとって怖いものなんてないからだ」
 今度は、ラルトはシノに向き直った。彼は途方に暮れた子供のような顔をしていた。いつだったか、この表情をみたことがある。
 そう、レイヤーナが、病んでしまった、その事実に初めて彼が直面したときの表情だ。
 シノはなんと彼に声をかければいいのかわからず、黙りこむことしかできなかった。今の状況は、確かにあの頃に似ているかもしれない。前皇后レイヤーナ。かの人がラルトとのすれ違いの末に、精神をすり減らし、体力を衰えさせ、ひとつのことに固執したり、癇癪を起こしたりするようになった頃と。
 とてもよく似ている。
 ティアレもまた、かの人のように病む、その入り口に立っているのかもしれない。
 そう、ラルトは思っているのだろう。
 彼はこちらから視線を外し、すぐ傍にあった、低木の先に触れた。
「……ティーを、直視したくないと思った。彼女を失うことを自分でも馬鹿馬鹿しくなるぐらいに脅えているっていうのはわかるのにな。それでも、ティアレがいなくなった瞬間、安堵してしまったことは事実なんだ」
「陛下」
「馬鹿げてるよな」
 馬鹿げている、とラルトはうわごとのように繰り返し、苛立たしげに土を踏み鳴らした。おそらく、ティアレを追い詰めて家出などという事態に追い込んだばかりか、それを一瞬でも喜んでしまった己を腹立たしく思っているのだろう。
 彼の衣服の裾が、舞い上がった土埃に霞んだ。
 ラルトは紗の濃紺を重ねた、無地の袍に、黒い帯という簡素な出で立ちだった。町に出ても、誰も彼が皇帝などと気付かないだろう。それほどに簡素な衣服だった。
 話題を変える意味合いをこめて、シノはラルトに尋ねた。
「最近、とても簡素な衣服ばかりお召しになられて。何事にも面倒くさがるのはよくない傾向ですわ。陛下」
 人は気落ちしているとき、煩雑なことを放棄したがるものだ。ラルトも疲れているときには特に、簡素な衣装にしたがる。
 ラルトは自らの身なりを見下ろしながら言った。
「面倒なわけじゃない。こっちを着ていれば、普段の衣服を、また重く感じるだろうって思ってな」
「……普段の?」
「即位したばかりのころ」
 昔を懐かしむように、彼は目を細める。
「俺は皇帝としての衣服が嫌いだった。あれを重くないと思ったら終わりだと思っていた。けれど、人は慣れる。俺もまた最近、慣れがちで。だから、あえて脱いでいる。そしたら、あの面倒な衣装も酷く重く感じられるだろうさ」
「……そうでしたか」
「それに、最近考えてるんだ」
「何を、です?」
 皇帝の双眸に宿る光は暗い。暦は春。けれど、この奥の離宮は、まだ冬のように冷えている。
 ラルトの瞳もまた、冷えていた。
「こうやって、一人ひとり、周囲の人間を傷つけ失っていくばかりの皇帝っていう位は、一体なんなんだろうと」


「ソンジュ・ヨンタバルで、ございます」
 ダッシリナに到着した五日目、顔を合わせるはずの盟主は約束の席に現れなかった。そのかわり、高官たちに付き添われ姿を現した男は、どこか暗い様子の付きまとうさえない男である。
 黒髪黒目、身につけている衣服も黒尽くめ。長い髪はひとつにまとめられ、飾り玉が編みこまれている。その色すら灰色や墨色といったもので、エイは彼の趣味に思わず身を引きかけた。
 彼の表情からも、まるで喪に服しているかのような陰鬱さだ。
「失礼、ヨンタバル殿」
 落ち着け落ち着けと自己暗示をかけながら、エイは男に尋ねる。
「盟主はお出でにならないのですか?」
「は、はい、もも、申し訳ありません……」
 男はどもりながら頭を下げ、その拍子に近くに飾ってあった花瓶をひっくり返す。高級な骨董品ですといわんばかりのそれは、その場にいるものを萎縮させるに十分なほどの盛大な音を立てたが、幸いにして割れることはなかった。
「あっ、あっ!」
「代行、私たちが直しますので」
 大理石の床に転がっていく花瓶を、男が慌てて追いかける。その様を周囲の高官たちが押しとどめる様を、エイは呆然としつつ呻いた。
「代行ということは、貴方が、盟主の代わりに?」
「え? あ、はい」
 花瓶を抱え上げたソンジュは、恐縮そうに視線を伏せた。
「わ、私じゃ頼りないとは、おも、おもうんですけれど……」
「いえ。そのようなことは」
 ない、といいかけたまま、エイは愛想笑いを張り付かせた。口元が引き攣る。
「盟主は今どちらに? 一体今日はなぜ……」
 まがりなりにも隣国の正式な特使であるエイと、盟主が会おうとしないなどと、外交問題に関ってくる。しかも今日顔を合わせることを確約していたのだ。エイはとある会合で半年前、そして星詠祭では昨年一昨年とも、盟主とは顔を合わせている。彼女の誠実な人柄を思えば、その約束を反故にするなど考えられなかった。
「盟主は、ここのところ、体調を崩されておいでなのです……」
「体調を? いつから」
「半年ほど、前でしょうか……」
 半年前というと、エイが最後に彼女と顔を合わせた頃だ。体調の悪さなど、考えられなかったが。
「徐々に、体調を崩され、先だってはとうとうお倒れになられてしまいました」
「何故、こちらに連絡がこなかったのです?」
「えーと」
「混乱を避けるためです」
 言葉に詰まるソンジュに代わって応じたのは、彼の秘書官らしい男だった。
 深緑の簡素な袍に身を包んだ彼は、エイと目を合わせると僅かに微笑み、一礼した。
「こ、こっちは、リアス・ラヴィアです。わ、私を支えてくれる秘書で」
「お初にお目もじたまわります。エイ・カンウ様」
「えぇ、こちらこそ」
 ソンジュよりもよほど堂々として見える黒髪の男。年は三十路前後だろうか。取り立てて美丈夫というほどではないが、目元涼やかだ。エイは驚いた。どうにも抗えない魅力を携える男なのに、彼が発言するまで、彼の存在に意識を払うことがなかったのである。
「僭越ながら私が、お答えしてもよろしいでしょうか?」
「……どうぞ」
 許可を出すと、リアスは微笑み、再び丁寧に頭を下げてから発言した。
「我々はまだ、国民にも混乱を避けるために盟主のお体について公表しておりません。それゆえ、他国にもご連絡を差し上げることができませんでした。お体が特に優れずにあらせられるのはここ最近のこと。盟主ご自身、お体を厭い、星詠祭に望まれるべく、本日は床に伏せられております」
「め、盟主ご自身、カンウ様にお会いできることを、とても楽しみに、していらっしゃいました」
 ソンジュが口を挟み、リアスが一歩身を引いた。それだけで、リアスの影がまるでそこにいないもののように薄くなる。エイはソンジュに向き直り、彼の言葉に耳を傾けた。
「ですから、本日のご無礼は、いつか、必ず埋め合わせをすると……。それで、本日はご容赦いただけないでしょうか?」
 エイは思わず、傍らに控える側近と顔を見合わせた。ダッシリナに来てから合流したウルは、今はエイの副官として今回の会合に同行している。
「判りました」
 ウルと小さく頷きあって、エイは彼らに微笑んだ。
「そういうことでしたら、私たちも何も言えません。ひとまず此度の打ち合わせを終えてしまいましょう。盟主にはどうか宜しくお伝えくださいますよう。また体調のよろしい折にでも、見回せていただければと思います」


「よっと」
 屋根の瓦に足をかけ、身体を振った反動で上に昇る。年齢が上がるにつれて身体が重くなり、昔のような動きはできなくなったが、身の軽さは健在だ。屋根の上に昇ることは造作もない。
 ヒノトは朱塗りの瓦の上に腰を下ろし、足を軒の下に落としてぷらぷらと揺らしながら、街並みを見渡した。
 水の帝国と似て非なる街並みは、今は祭りを前にして高揚している。首都の中でも郊外に位置するこの館の周囲でさえ、賑わった雰囲気を見せていた。色鮮やかな垂れ幕があちこちではためいている。甘い焼き菓子の匂いがどこからともなく漂って、ヒノトは思わず鼻を鳴らした。
「いい天気じゃのぅ」
 ここにきて早五日。のどかで、平和だ。ブルークリッカァの宮城であった騒動がひどく遠く思える。はっきりいって、退屈が過ぎるほどだった。明日の朝にはブルークリッカァへ戻るための迎えの馬車がくるという。とはいえど、戻りの馬車は直接宮城に向かうわけではない。一度は王家の別宅へ向かうらしい。
 星詠祭は明々後日から本番を迎えるので、まるまる見逃してしまうことになるが仕方がない。この家出を思いついたのは星詠祭をティアレに見せてやりたいと思ったことがきっかけである。しかしエイに言った通り、ヒノトも本気で祭りを見られるとは思っていなかった。仕方がないだろう。
 だがヒノトの行動も、少しはティアレの回復に一役買ったらしかった。ティアレは食欲を取り戻して、歩き回るようになった。城に直接戻らなくてもいいという気楽さもあるのだろう。ティアレの心情はヒノトが見る限り穏やかで、今は屋敷の庭の散策に今は留まっているが、そのうち街歩きもできるようになると、ヒノトは予想していた。
 けれど、できれば、少しだけでも、ティアレにこの街の様子を見せてあげたかった。
 こうやって屋根の上から見渡すだけでも、ダッシリナの様子はブルークリッカァとは随分異なる。ダッシリナは盆地に位置しているために、ブルークリッカァと比べて平野部が多い。遠い地平線。広い空。祭りが近づくたびに活気付いていく人々の雰囲気は、部屋の窓からでは読み取れない。
 自分はまだいい。確かにエイの後見を受けてはいるが、重い役職に縛られているわけではないからだ。本当は、これからの星詠祭も、出歩こうと思えば出歩ける。
 しかしティアレには、護衛が必要だ。単純に出かけるにしても護衛を確保していかなければならない。残念ながら、ヒノトの手は武人の手ではない。無茶なやり方で城から彼女を連れ出すことはできても、それまでだ。
 しかしこうして少しでも違う景色を見て、ティアレに伝えることはできるだろう。そうすれば、彼女の煩悶を少しでも殺ぐことができる。真新しいことを話せば、彼女のラルトや子供のことで悩む時間は僅かでも少なくなるはずだった。
 ティアレのこと、ティアレを連れ出してしまったことで自分に降りかかるだろう懲罰のこと、リョシュンの怒りも目に見えるようであったし、ラルトのことも気になる。
気になること、だらけだ。
「まぁ何はともあれ……」
 ヒノトは呟きながら、そのまま背中から倒れた。
「退屈じゃ……」
 反省文ばかり書かされる日々に、飽きてきたことも確かだった。


「どう思う? ウル」
 館へ戻る最中の馬車の中。向かいに腰掛け書類の処理を行っているウルに、エイは様々な報告書に目を通しながら、尋ねてみた。
「確かにここ半年ほど、盟主があまり公に姿を現さなくなっていたのは確かです。最後に公の場に出たのは一月ほど前でしょうか」
「ふぅん?」
「ソンジュ・ヨンタバルという人間が、代行として盟主の代わりにちらほらと公に姿を現し始めたのもその頃ですね」
「唐突に公の場に?」
「いいえ」
 ウルは首を横に振った。
「彼は盟主の甥に当たります。非公式の場でしたら、幼少のころよりちらほらと姿を見せていますね。盟主の血族は彼のみですが、聡明な盟主と違って、ヨンタバル殿は風采の上がらない甥として有名で、彼自身もあまり面には出たがらなかったようです。が、まぁ彼自身貴族ともなれば仕事をしないわけにもいかないでしょうし……最近になって姿を現し始めたといっても、誰も違和感は覚えていないようです」
「君も?」
「えぇ、私も。申し訳ありませんでした」
「いや。大丈夫」
 いくら諜報の網があるとはいえ、宮中については探りにくいことは確かだ。表立って不穏な動きがないのであれば、諜報の目からすり抜けてしまうこと皆無ではない。
「彼の側近は?」
 報告書に目を通し終わり、処理すべきものとそのまま保持できるものとに分別しながら、エイは尋ねた。
「リアス殿ですか?」
「うん。気にならなかった?」
「気になりました。調べさせます」
「最近、出てきた人?」
「そうですね。ここ半年程度でしょうか。そんなに場に出ることはなかったようです。彼にはもう一人側近がいたはずですが……頻繁にソンジュ殿に付いてらしたのは、そちらの側近だったと聞き及んでいます」
「副官が二人いるの? 贅沢な身分だねぇ」
 水の帝国は、高位の官でも大抵秘書官は一人だ。無論、エイも公式の副官はウル一人である。もっとも、元暗部の人間であり、諜報の網を取りまとめているウルは留守にすることも多く、その間は彼の部下であるスクネが副官まがいのことをしているが。
「というか、副官が一人しかいない水の帝国が稀有なんですよ。うちの国ぐらいの大国になれば、副官が五人いてもおかしくありません」
「あれ? そう?」
「カンウ様? いいかげん、うちの国の上官は、一人一人の能力が高いのだということを認識なさってください。貴方様も含めて」
「……そうなのかな」
「以前より少なくなったとはいえ、今だ、貴方様はご自分を卑下されることも多いですが、他国の官と比べるのも馬鹿馬鹿しいぐらい貴方様方は有能なんです。副官がいなくてもあの膨大な仕事を処理してしまう陛下とか、べらぼうに機動力高い宰相閣下とか、あそこらへんと比べるから変なことになるんですよ」
「酷い言い様だね」
 エイは苦笑した。この場に皇帝と宰相がいれば、二人とも失笑するだろう。
「これが、真実です」
 すました表情でウルが言う。
「ですから、風采の上がらないといわれているソンジュ殿に二人しか副官がついていないということに着目してくださいよ、カンウ様。ちなみにこの国は、一人の高官に三人程度副官がついてます」
「……副官が、少なすぎる?」
 平均して三人とするなら、無能だと囁かれる男にはそれ以上の人数が付くのが普通だろう。だが、ヨンタバルにはたった二人しかついていない。
 それの、意味するところは。
「私ももっと早く気付くべきでした。考えられる可能性は三通りです」
 ウルは三本指を立てて、一本一本丁寧に折り曲げながら言った。
「一、あの、リアスという副官が曲者である。二、ソンジュ殿ご自身が曲者である、三、副官二人が曲者である」
「四、もう一方の副官が曲者である。五、三人とも、曲者である」
「あぁ……それも、ありますね」
 ウルは頷きながら、残りの指を折り曲げた。
「それから、盟主の居所を確認するように」
「真実を確認するためには、盟主と連絡を取ることが一番早いですしね」
「うん、それもあるんだけれど……」
 膝の上に頬杖をついて、エイは言いよどんだ。
「……カンウ様?」
「なんとなく、似てないか。この感じ」
「……リファルナのときとですか?」
「そう」
 榕樹の小国リファルナ。
 別名、医療の国と呼ばれる南大陸の小国へエイが赴いたのは二年以上前だ。ウルやスクネとはじめて仕事をしたのも、そのとき。ヒノトに出会ったのもそのとき。
 もうそんなになるのだな、と思いながらも、エイはあの半月程度の日々を昨日のことのように思い出せる。
 つい先日も、思い返したばかりだ。
 ヒノトのことを思い出しかけた頭を振って、エイは微笑んだ。
「あの時も、着いて早々、王が病気とか言われたね」
「懐かしいですね」
 微笑みながらも、ウルは決して言葉通りの感傷になど浸っていないだろう。
 リファルナのときは、王の不在は城内部の対立の為、王の近習の謀反の為だった。
 今回も、盟主が不在ときている。
 早急に、彼女の居場所を確認しなければならないだろう。
「こっちの副官としての仕事も平行しながらだからかなり忙しいとは思うけど、調査を頼むよウル」
 エイの言葉に、ウルは微笑み、深々と頭を下げた。
「かしこまりまして」


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