序章 夢
夢を見た。
とても懐かしく、愛しく、涙の零れる夢だった。
愛しい女に手を引かれて暗闇を歩く。女は行き先を告げずに笑っている。たどり着いた場所は、蒼く透明な水を湛えた美しい土地を見渡せる丘。白い墓標が風に吹かれて座していた。
その墓標の前で立ち止まり、女は同じく墓標の向こうから駆けて来た、別の女と手をとり笑い合った。墓標の前で自分たちを待っていた女の手は、男の手と繋がれている。男は自分のよく見知った顔で、それこそ恋焦がれるように会いたいと望んでいた男だった。
恋焦がれるように会いたいと望みながらも、会えないと知っている男だった。
男は何かを呟き、自分も震える唇を動かした。
吹いた一陣の風が、互いの掠れた声を掻き消した。
「どんな夢を見たの?」
「どのような夢をご覧になったので?」
女は微笑んでそう尋ねる。横になった体勢のままで瞼に手を重ねた自分は、自嘲の笑いを零して応じた。
『忘れてしまったよ』
春も間近の冬。
僕らは確かに、そんな夢を見ていた。
一つ、東に水の土地。
主神弑した。
英雄の土地。
古い呪いに。
今も。
喘ぐ。
終古の帝国