猫真似(女王の化粧師)


「ヒース、いつそれ読み終わります?」
 隣でころりと仰向けになったディアナが、こちらの手元の本を指さす。寝台の背に身体を預けながら読んでいた本の残りの頁数を、ひのふと数え、答えた。
「あと四半刻ぐらいですね」
「四半刻……」
 おうむ返しに呟く娘は不満げだ。
「……どうしました?」
「んー……私、本読むのに飽きちゃったので」
 ディアナの手から少し離れたところに広げられたままの画集が放置されている。ヒースはしおりを探しながら訊いた。
「散歩にでも行きましょうか」
「はい。あ、でもいいですよ、読み切っちゃって。待ってますし」
 そうは言うものの、彼女はどことなく退屈げで、ころころと寝台の上を転がっている。ヒースは思わず呟いた。
「猫みたいですね」
「……はい?」
「厩に住み着いていた野良猫が、ときどきそんな風にしてたなって」
 餌をねだるときに。
 そんなことを思い返しながら再び紙面に視線を落とす。
 しばしディアナは沈黙し、そしてヒースの袖を引いた。
「ひーす」
「なんです?」
 ディアナがこちらの手をもてあそびながら呟く。
「……にゃーぅ」
 思わず口元を抑えて顔を伏せたヒースに彼女は慌てた様子で跳ね起きた。
「えっ、どうしたんですか!? すみません変なこといいました!」
「イエ……」