忠誠を受ける(女王の化粧師)

  再び女王になったことに感慨はない。自ら望み、それを勝ち得た。それを幼かったころの自分なら喝采していたかもしれないが、いまは目的のための通過点だったに過ぎない。面倒なことを自ら背負ってしまった、という自らへの諦念と、国を背負うことの重圧を再び感じるだけだ。
「もっと喜んだ顔してもいいんじゃないかい?」
 と、宰相は言った。
「脳天気に喜んでいられるほど目出度くないわ」
「それもそうか……」
 彼は笑った。少し離れていた間に彼は倦怠を纏うようになっていた。この一年弱もの間、かなり苦労したようだ。その理由の一端はマリアージュにある。
 だがこのまま疲れていてもらっては困る。彼にはこれまで以上に働いて貰わなければならないのだ。
「……あんたの言うことにも一理あるのかもね」
「うん?」
「喜べって話。……盛大な宴でも開くべき? わたしに投じた貴族たちを集めてねぎらうためには」
「あぁ……」
 自分たちは昔、自分に賭けたものたちの労い方を誤った。それを繰り返すつもりはない。宰相は苦く笑って頷いた。
「そうだね……そうしよう。そこで、改めて君が女王であると、知らしめよう」
「ロディマス」
 マリアージュは宰相に呼びかける。
「あんたはどうなの?」
 マリアージュの宰相となるのか。それとも、デルリゲイリアの宰相として、隣に立つのか。マリアージュはこれまで確かめてこなかった。
 ロディマスはふっと笑った。苦いものを飲み下した笑みだ。泣き笑っているかのようにも見える。
 彼はその場に跪くと、マリアージュの手を取ってその甲に静かに口付けた。
「君は僕の女王だよ」
「……そう」
 ロディマスは先代女王よりこの国を託されていた。その上でなぜマリアージュを選んでいたか知らない。知ろうともしていなかった。自分たちは女王候補、あるいは、女王と宰相だった。
 だが、彼は真実、選んだのだ。マリアージュを。だから、自分も改めて選びかえそう。この手の甲の口づけに誓って。
「頼むわよ。これからも」
 マリアージュの言葉に、ロディマスは微笑んだ。