あなただけは(女王の化粧師)

 セレネスティに化粧を施すディアナを眺め、ふと疑問に思った。
「そういえば、陛下に化粧をして大丈夫でしたか?」
 依頼したのは自分だ。かねてからの願いだったから、彼女の心的外傷を失念していた。
 仕事終わり、化粧道具を鞄に収めたディアナが、こちらの問いの意味を悟ってか、そういえば、と首を捻る。
「大丈夫ですね。震えも来ないようですし……」
「ならよいですが」
 んー、と彼女が思案する。しばらくして、彼女は微笑んで言った
「あなたに似ているからでしょうね」
 不意の言葉に思わず瞬く。その意味をしばし考えて、ディトラウトはディアナの頬をぷちっと潰した。
「それはわたしが女顔だということですか?」
「ひはひまふ! もー!やめてくださいよ! 頬潰すの! ってゆーか、そのままの意味です! そのままの意味です! あなただからなんです!」
 ぴょんこぴょんこ跳ねて抗議する彼女に、ディトラウトは少し笑って、そうですか、と彼女の髪を梳いた。


「陛下、俺めっちゃ彼女ほしい。めっちゃ彼女ほしい」
「うるさい。サガン老にでも釣書もらいなよ」
 いまならマリアージュと友好的な酒を飲めると血迷ったことを考えて、セレネスティは顔をしかめた。