大会議室前(女王の化粧師)

「ダイは来ていないのですね」
 会議場へ向かう最中、サイアリーズから小声で問われた。道中の会話は自由である。主従で会話している国もあるし、雑談している女王たちもいる。前方ではジュノがゼクストの宰相に何事かを話しかけ、相手を辟易させていた。
「あの子はあの子で仕事があるの」
「おやそうですか。残念です」
 サイアリーズは本当に残念そうで、マリアージュは横目で彼女を見た。
「ずいぶんうちの化粧師を買ってくださっていること」
「マリアージュ女王陛下の御目は高いと思っていますよ。国章持ちでなかったら引き抜きの誘いを掛けたいぐらいですね」
 ぐ、と、息を詰まらせ、マリアージュはサイアリーズを見返した。
 イスウィルに手を引かれて歩くゼムナム宰相は、冗談ですよ、と、にっこり笑う。
「ですがその反応ですと、わたくしと同じ冗談を口にした方がおいでのようで」
 畏れ知らずはどなたでしょう。と、弾んだ声音でサイアリーズが嘯く。
 しまった、と、舌打ちしたい気分にかられているとふと、斜め前を歩く男が密かにこちらに向ける目とかちあった。
 マリアージュは視線を逸らして、呻く。
「……ルグロワ市長よ」
「あぁ、レイナ・ルグロワ女史か! なるほど! おっしゃりそうですね!」
 あははは、と、軽やかなゼムナム宰相の笑い声に、皆がなんだなんだと背後を見る。


「……楽しそうだねぇ、何を話しているのやら。ねぇ、兄上」
 呆れの目を彼女に送る主君に、さて、と、返しながら、ディトラウトはため息を吐いた。