地上(CHILDREN)
その螺旋階段を昇って幾重ものゲートを抜けると、”太陽”が電灯のかわりに世界を照らしているんだって、シスターは言っていた。古い写真(デジタルフォト)の色は所々が抜け落ちていたけれども、フォトの半分を埋める青と白はとてもきれいで。その合間に輝く丸い球体が、太陽なのだと知ることはできた。それが世界を照らすと、とても温かいんだとか、干した布団はいい匂いがするんだとか、シスターは俺たちにそんなことをいつも寝物語に聞かせてくれて。
俺がいつかいけたらいいねっていうと、”みぃ”は、俺が居ればどこだって明るいし温かいなんて、馬鹿みたいなことをいうんだ。
俺はいつも思っていた。こんな、血と汗と酒と腐臭が漂う世界じゃなくて、もっと”風”っていうものが吹いて、お日様が世界を照らす広い場所に、みぃをつれていってやりたい。外は広いって聞いた。ふたりでゆっくり暮らせる場所だって探せるだろう。乙だって、人間を狩らなくてもいいはずだから。
なのに。
そう願っていたのに。
どうして”向こう側”に今立っているのが、俺ひとりなんだ。
空を見上げた。夢見た青が、広がっていた。肌を刺すような光は熱い。
真っ白にたなびく水蒸気の塊の狭間から俺を見下ろしている、”太陽”の仕業だってわかった。
光に目を焼かれたからだろう。じんと、瞳の奥が痺れるような痛みを脳裏に伝える。
瞼を閉じると、痛みを癒すための涙が、頬を伝った。