めった刺し(女王の化粧師)


「ねぇアスマ。ちゃんとダイと連絡とれるんだよね?」
「当たり前だよ。アタシがあの子を連絡もとれないようなところに送り出すとでも思うのかい?」
「そんなふうには思わないけどぉ」
「はー、ダイ大丈夫かなぁ。泣かないかなぁ」
「あの子は泣ける場所がある方がいいんじゃない?」
「それもそうね」
「あぁーしんぱーいやだー!しんぱーい!」
 過保護な芸妓たちに笑ってしまう。そのアスマを見咎めて、芸妓のひとりが口先を尖らせた。
「なによ、アスマってば平気そうね」
「そんなことはないさ」
 心配せざるを得ない。何せダイは未知の世界へ飛び込んだのだから。
「でも送り出すと決めたから」
「アスマ…」
「うう、ダイが帰ってきたら甘やかそうね!ダイが泣かされたり辛い思いしてばっかりだったら、あのお兄さんに責任とってもらって痛い目にあってもらおうね!」
 芸妓たちが唱和する。
『さんせーい!』
 アスマは苦笑した。あのとびきりきれいな青年に同情しつつ、それでも、杯を掲げてきれいな笑顔で微笑む。
「痛い目ぐらいじゃすまないよ」
 葡萄酒を飲みながら呟いた。
「めったざしだね」
 やだーこわーいと芸妓たちの笑いがこだました。