LINE(白錫と黒曜)
お鈴さんがスマホに変えた。
まだガラケーやったんかっちゅう話やけど、このひとなぁ、結構な保守派なんよ。石橋叩いて叩いて割るタイプやな。
普段はタブレット使いやから、手に入れた新しいおもちゃの扱いに、それほど難儀してる様子はなかった。
生真面目な顔で説明書にさっと目を通し(驚くべきことにこのひとちゃあんと説明書よまはる)、アンチウイルス含むアプリ関係をさくさくダウンロードして。
そして険しい顔つきで僕にスマホを突き付けた。
「LINEの使い方を教えろ」
「はい?」
眉間に皺を寄せて下唇を突きだしたお鈴さんはぷるぷるしてる。
これはあれだ。照れてる顔や。あかん。めっちゃかわええ。
えへら、と笑った僕に、お鈴さんはキレた。
「耀! 人の話を聞け!」
「あっ、はい、すみません。えっ、何、LINE?」
そう、と、お鈴さんは頷いた。アプリはダウンロードしたらしい。
「そのまんまやろ。友だち登録して、話かけるだけや」
「友だちの登録……」
「最初は電話帳そのまま読み込んでるやろ。ちょっとおにーさんにお貸しなさい」
お鈴さんからスマホを受け取って、件のアプリの画面を呼び出す。
そしてびっくりした。
「すっ……くな!」
少ない。なんやこれめっちゃ少ないで。
「え、友だち消しとらんよなぁ」
「消してない」
「何でこないに少ないん?」
「こっちはプライベートだから」
仕事用は企業が一括でリースしてる旧携帯で、付き合いの浅い友人はSNSで交流してるらしい。
お鈴さんがプライベートとして使用している携帯には、親族二名、地元の居酒屋、幼馴染み四名、そして、僕の名しかなかった。
そんなやから、アプリのお友だち欄に連なる名も、なんと七つしかなかった。
「こっちで仲良うしてるひとおらんの? なんだかお鈴さんが心配やわ……」
「仲良くしすぎると色々あってな。女はややこしい」
……女の嫉妬こわいなぁ。
お鈴さんにアプリの使い方を伝授しながら、僕はふと気になった。
「そういやお鈴さん急にスマホにしはったなぁ。なんでなん?」
「みぃたちがスマホにしたから」
お鈴さんの幼馴染み四人。
「……このアプリつかおー思たんも?」
「みりあに使い方を訊かれたときのために予習しておきたい」
でました。みりあさん。お鈴さんの最愛のひと。
愛され方で僕ぜったい負けてる気がするんよなぁ……。僕がスマホに変えたときふーんって感じやったもんなぁ。
そしてみりあさんの前でめっちゃええかっこしいなお鈴さん。
みりあさんにアプリの使い方訊かれたときのシミュレーションもばっちり。
スマホを覗き込む顔つきは真剣そのもの。
「おー鈴さん」
「何だ?」
「僕に何か送って-。かわいーいスタンプでもええよ」
「スタンプ……」
買い方も伝授したよ。
使いやすそうなん何種類かもダウンロードした。
ぽぽん、と、音がして、自分のスマホを覗き込むと、お鈴さんからかわいいうさぎのスタンプが来た。
『ありがとう』
お鈴さんを見ると、神妙な顔をしている。わかってる。この小難しそーな顔はな、照れ顔ぷらす不安顔なんやで。
僕は微笑んでスマホの文字盤をフリックした。
『どーいたしまして。ところで僕が初ライン?』
『そうだが?』
僕はふふっと笑った。やーいみりあさん、お鈴さんの初めては僕がもろたよ。
ぴこぴこと適当にスタンプすると、お鈴さんが器用に受け答えばっちりなスタンプを送り返してきた。
「というか、いま目の前にいるのにこれで会話する意味なくないか?」
「あははは今さら気づいたんか」
むっと苛立った顔でお鈴さんがスマホをフリックする。
ぽぽん、と、僕のスマホから電子音。
『ば か』
『ひどいなぁ』
それからしばらく僕らはスマホで遊んだ。
きっかけが僕とちゃうんは釈然とせんけど。
君と繋がれる糸が増えるのは悪い気せんよ。
もっともっと、つながりたいなぁ。
なぁ、僕の女神。