back//next//index

9

何で目を開かんのか、医者も誰も判らんかった。経過は良好で、拒絶反応は出たものの、劇的なものではなく、アンモニアの値も、肝臓の活動も、今は安定しとる。本来なら退院できるほどの、目覚しい回復やった。
それにも関わらず、柳は一向に、目覚める気配を、見せへんかった。

「脳が、覚醒のための信号を送らないのです」
 医者は、ため息混じりにそう俺と先生に告げた。
「身体が非常に疲れていると、昏睡状態に陥ることがあるでしょう。布団の上に倒れて、揺り起こされようが何をされようが、体力が回復するまで決して目覚めない。今柳さんの状態は、それと同じ状況にあります」
 ただ、その期間が異状に長いだけなのです、と医者は付け加えた。
「長い闘病生活で、体力を使い果たしていたのでしょう。実際、この夏まで持ちこたえていたということ事態が、奇跡じみている。古い肝臓を摘出したとき驚きました。いえ、摘出とは、もういえなかった。肝硬変は細胞が繊維状になる状態を言いますが、柳さんの肝臓は完全に壊死して、大きさが親指の爪ほどしかなかった。よくあんな状態で、生きていられたものです。その爪ほどの部分が、かろうじて生き残り、わずかながら機能を果たしていた、ということでしょうか。それもぼろぼろで、摘出すると同時に糸くずのようになってしまった。あれには、本当に驚いた」
 しみじみと頷く医者の襟首をつかんで、怒鳴りつけてやりたい衝動を、俺は必死に堪えとった。怒鳴りつけたからいうて、柳が目覚めるわけやない。
「柳は、目覚めるんか?どうなんや?」
 いくら怒気を押さえこんどったって、憤怒が声に滲み出る。俺はただ、どれぐらいこの状況が続くのかだけ、語って欲しかった。
 憶測でも、いいから。
「判りません」
 医者は力なく首を振って、こう答えた。
「……もう、とっくに目覚めていていいはずなのですから。……もしかして高濃度のアンモニアによって、脳のどこかが損傷しているのかもしれません。……下手をすると、植物状態ということも、ありえます」

 柳の部屋は、最後に会話をしたあの部屋で。
 加茂川が見下ろせる。蜩が鳴くようになった。夕暮れ時に、赤とんぼがちらちらと姿を見せよる。昼間の日差しは相変わらずきついけど、夕方ごろになると風に肌寒さを覚えるようになっとった。
 俺は空気の入れ替えのために開け放たれとった窓を閉めて、パイプ椅子に腰を下ろした。もうどれぐらい、この椅子を暖めたやろう。俺は京都にアパートを借りて、この街でバイトを始めた。空いた時間全てをここで過ごす。手を握り、語りかけ、時にギターを弾いてやる。
 柳は、けれど一向に目をさまさへん。手を、握り返してくることもない。細い幾本もの管につながれて、か細い命をつなげとる。
「……俺がやったことは、間違いやったか?」
 生きて欲しいと強く願った。こいつの為にやない。他でもない、俺のために。
出来ることは全てやった。全部こいつに生きていてほしいが為やった。けれど、今柳は確かに生きとるけれども、呼吸をして、温かいけれども、
 上手いもん食うことも、音楽聴くことも、テレビみることも、本読むことも。
しゃべることも、怒ることも泣くことも笑うことも。
 何も、出来へん。
植物状態。
 そんな状況が、これからもずっと続いていくとしたら。
俺は、柳をただ牢獄へと押し込めてしまっただけとちゃうんやろうか。
「……俺なぁ柳、一次通ってん」
 俺は柳の手をさすって、呟いた。傍らの棚に置いた茶封筒を見やる。株式会社J&Mと、右下に印刷された封筒。
 先々週、書類審査通過の通知が届いて、先週大阪の会場に一次を受けに行った。一次審査のなかにも何段階も選考があって、でたらめに踊らされたり、運動をしたり、作文を書いたりやらされた。最初の一つで飛ばされた奴も大勢おった。なんか知らんけど、俺はそれらの審査には全て合格したらしい。
 一週間後に、面接を受けに東京まで来るように、と、通知が来た。その日は仕事が入っていて抜けられんかった俺は、無理を言って休みを取っとった明日に、面接の日付を変更してもらった。
「ちょっと東京まで行ってくるわ。……ごめんな。明日、来れへんけど」
 柳は無論答えへん。瞼を震わせることすらない。聞こえているんか、聞こえてないんか。脳波は変わらず、一定の波を刻んで。規則正しい電子音と、呼吸器の音が蜩の啼きを遠ざけて、部屋に響いとる。
『あたしなぁ、夢見てん』
 柳は、そう言った。満面の笑みを浮かべて。
『子供らと一緒に、テレビの前に座っとって、一緒に画面にうつっとる、流を見とるんやで。流、気持ちよさそうにギター弾いとった。すごいえぇ歌を、違う兄ちゃんが歌っとって、その横で』
「……まだ、夢見とるんか?」
 俺は軽く前髪を払って、柳の額に口付けをする。どこぞの御伽噺みたいに、キス一つで柳が目覚めたら、どんなにいいやろう。
 俺は封筒をかばんに収めて、立ち上がる。しばらく柳を見下ろして、何も変化がないことにため息をつき、そして静かに、部屋を出た。

 面接の場所であるJ&Mの事務所は、なかなか近代的な造りのビルやった。そこここに観葉植物が植えられとる、居心地のいいビルで、受付のねーちゃんも対応がよかった。しばらく待つように言われ、現れたのは、アルバイトやろうか。女子高生ぐらいの姉ちゃんや。首から下げられたネームプレートには、“葛西”の文字が躍とった。
「はじめまして。今日お世話させていただく葛西です。増嶋さんですね?こちらへどうぞ」
 若いけど葛西のねえちゃんの対応は丁寧で、もしかしたら中学生かとも思えるぐらいの童顔に、なんとなく親近感が沸いた。眠っているとそうでもないけど、起きているときの柳は騒がしくてとことんガキっぽい。ふと医療器具につながれたあいつの顔がよぎって、俺は気鬱になりそうやった。
 通されたのは、どうみても舞台裏としか思えんような場所やった。葛西のねえちゃんは携えていたクリップボードの書類をぱらぱらとめくりながら、何かを確認し、どこからともなくギターを取り出し俺に手渡した。
 怪訝さに眉をひそめ、俺はねえちゃんの顔をまじまじ見返す。すると葛西のねえちゃんは微苦笑を浮かべ、口を開いた。
「ギターを弾けるはずですね。弾き語りはできる、となっていますけれども」
「できます」
「では、何でもいいので引きながら、歌を歌ってみてください。場所はあちらのステージの上です。チューニングと心の準備が出来たら、舞台に上がって、好きなときに歌を始めてください」
「……はぁ」
「お手洗いは出てすぐ。お水、よろしかったらそちらにウォータークーラーがあります。ご自由にどうぞ。荷物お預かりいたしますね」
 葛西のねえちゃんは俺の荷物を引き取って、笑顔で退室していく。俺に残されたんはギターだけで、とりあえず乾いた喉を潤すために、ウォータークーラーまでのろのろ足を動かした。
 水を飲み、一息ついて、舞台のほうに視線をやり。
そして、驚きに俺は息を呑まざるを得ぇへんかった。
 舞台袖から見えたんは観客や。大勢、というほどでもなかったけど、軽く五十人はいるやろう。その半分が俺よりも年下のやつらで、中には小学生ぐらいのもんもおる。綺麗な造作の兄ちゃんらばかりで、運動着を身につけとるところを見ると、いわゆる以前にオーディション合格した、デビュー前の訓練生――Jam,Kidsいう奴らか。
 俺はギターのチューニングにかかった。軽く音階を弾いて、音程を確認する。ギターとともに渡されたケースの中から、手にフィットするピックを選ぶ。
 アンプに繋げて音量を確認。ギターのストラップの長さを、立って演奏するときに支障がないよう調節する。瞼を閉じ、深呼吸をして。
 スポットライトの下に、俺は歩み寄った。

 その病院には、週に一度、足を運ぶ。
 奈良に移送するのは困難であるということで、その病院に留まるを得なかった。孤児院からその病院に毎日通うには無理がある。いつからか孤児たちの家族になった青年に、その少女の世話はすべて任せきりになっていた。
 今日青年は東京へと足を運んでいる。彼の行動一つ一つが、この彼にとって出会って間もないはずの少女の為で、それは少女に連れられ孤児院へとやってきた頃の彼を思えば、驚嘆に値した。
 先日、少女が植物状態である可能性を、彼とともに医師に説かれた。何もいうことができなかった自分の横で、青年は憤怒の色に顔を染めていた。小刻みに震える拳を握り、それでも懸命に、少女が目覚める可能性を探っていた。
 腹部の痛みに顔をしかめる。提供した自分の細胞は、確かに少女の身体で息づいていた。息づいてはいるが、少女を目覚めさせるにはいたらなかったらしい。これ以上、この少女の命を無理やり繋ぎとめておいて、何になるのだろう。男は、父なる神に繰り返し問い、穏やかに眠る、少女の姿を思った。
 このまま、肉の牢獄に閉じ込めるのなら。
 天に召します我らが父に、この気高く優しい娘を譲り渡したほうがいいのではないか。
 少女はただ眠っているだけだった。脳死ではない。けれども、このままでは脳死とほぼ同じ状態になる。
 点滴の、弁を閉じるだけで、少女の命は容易く奪えた。身体に気泡が入ることで、ショック死することは知っている。ただ、そうなった後の、青年の顔を、男は思った。
 自問を、繰り返す。
 自分は、罪を犯すべきか否か。

 そこは会場というよりも、小さなリハーサルホールのようやった。座席はパイプ椅子を並べただけで、客席部分の中央には長机がでん、とおかれとる。そこにはいかにも偉そうな、けれど俺の予想よりは大分若い兄ちゃんらが顔を連ねとった。
「説明は聞いたね?」
 長机の席に腰掛けている一人が、よく通る声で俺に言った。
「はい」
「では始めてくれたまえ」
 おそらく。
 これは、度胸をみるテストなんやろうな。ほんの五十人程度。上がる人間はこれでも上がる。やけど俺は、一万人の大観衆の前に一人立たされても、緊張する気はせえへんかった。
 蓮子さんと、羽崎と北見の兄ちゃん。
 あの、広い空間に、たった一人、座らされて。
 あのときの圧迫感と緊張感は、おそらく大観衆のそれを上回る。よく舞台に立ったときは観衆をかぼちゃや思えいうけど、俺にとっちゃ、あの三人と比べてまえば観客なんてかぼちゃ以下や。むしろ、かぼちゃがかわいそうやろ。そんなんいうたら。
 もし、テレビカメラがまわっとったら。
 ブラウン管を通して、柳とガキどもは、多分並んで見取るんやろうな。孤児院のテレビは一台しかない上に、すぐに色が消える。ばしばし叩いて腹をたてている柳の様子を思い浮かべる。それだけで、俺は噴出しそうになってまう。
 き、と音を鳴らす。何の曲を歌おうか。そんなん、考える間もなく指が動いた。
 俺が完全に弾ける曲なんて一つしかなく。
 俺が、完全に歌える曲なんて一つしかなく。
 白い病室で、柳を含めて、たくさん、命を賭けて闘とったやつらが、俺のギターに合わせて手を叩いた。
あの曲。

「何しとるんや?!」
 男は背後から響いた声に、びくりと身をすくませた。続いてやってくる衝撃。青年が一人、男の身体を掴んで床に倒した。その拍子、足が触れた椅子がひっくり返る。点滴の袋が衝撃に揺れた。倒れなかったのは、伸びた別の男の手が支えたからだった。
 息を切らして男に体当たりをかました青年には、見覚えがあった。今東京にいる青年の知り合いで、少女が劇症肝炎を引き起こす要因になった、小さな事件を起こした青年だった。リーゼントヘアーは相変わらずであったが、服装は学生服ではなかった。
 点滴を支えた男は、見覚えがない。だが、きちんと身なりの整えられた、スーツを着込んだ男だった。険しい顔で、彼は自分を睨んでいた。
 青年が、ぐ、と襟首を引く。馬乗りになって、青年は叫んだ。
「今なにやっとったんやおっさん!」
「わ、私は……」
 男は声を震わせた。頬から涙が零れ落ちる。今犯そうとしていた罪は、犯す前に断罪された。
「おっさん、今何しとったんや?!点滴勝手に弄ったら、どないになるかわかっとるんか!下手したら死んでまうんやで?!」
「安楽死……」
 叫ぶ青年の背後で、点滴のスタンドを握り締めた男が、ナースコールに触れていた。向き直った男の目は冷ややかで、軽蔑の色が混じっていた。
「……神崎さん?」
「わざと弁を閉めようとしとったな?貴様。流がどれだけこの子のために必死になっとったんかわかっとるんか?」
 神崎。そう呼ばれた男の声は抑揚が落とされ、けれども怒気が滲んでいた。
「基道、どけ。……わかっとるんか?なんとかいうてみぃオイコラ」
 基道、と呼ばれた青年は立ち退いた。自由になった体を床に伏せる。恐怖が身体の細胞全てを塗りつぶしていく。ただ、臥せって泣くことしかできなかった。叫ぶことしかできなかった。
「このまま、このまま眠り続ける人生の、一体どこがこの子のためだというのですか?!

 キャノン・ボーイズが歌う、アップテンポな曲調のその曲は、俺は柳が移植を受けた後で知ったんやけど、ドナー登録を呼びかけるキャンペーンソングやったらしい。
 去年初めて生体肝移植が行われたその関係で、臓器移植の存在を広めるためのキャンペーンが行われた、らしい。俺は実は柳のことで頭いっぱいいっぱいで、全然知らんかった。当然、柳は知っとったんやろう。シングルとして売り出されず、カップリングとしてしか収録されてないこの曲は、あまり売れてなかったんかもしれへん。
 それでもこの曲を酷く気に入って、何度も俺に弾くようにせがんできた柳。どんな気持ちで、この曲を聴いて、そして歌ったんか。
俺には判らへん。

 神崎が膝を追って目の前に屈む。男はただ、何かに懇願するように、息が続く限り叫び続けた。
「この子は、幸せにあるべきなのに!どうして目覚めないのですか?!ただ眠り続ける人生に、一体、どんな価値があるというのですか?!この子は優しい子です!私たちの貧窮を、よく判っている!このまま――っつ」
 首元に、銀色の鋭い獲物が突きつけられていた。神崎が、どこから取り出したのかナイフを手にしていた。よくよく研磨された薄い鋼は、すぐにでも自分の首をかききるかのように思えた。
 薄く笑って、神崎は言う。
「……正体現しおったな。くそ神父」
「か、神崎さん?」
「基道は黙っとれいや。……このくそ神父、自分がでっかい荷物背負うんを嫌がって、このお嬢殺そうとしおってん。……まだ、植物人間とも、脳死ともきまっとらへん。ただ、眠ってるだけやと、俺は流から聞いたけどな。……基道に謝らせたら目覚めるかいな思うて来てみて、まぁある意味正解やったな。……たく」
 す、と神崎はナイフを畳んで立ち上がる。一瞥する価値もないというふうに目をさっさとそらし、元に戻したパイプ椅子に腰をおろした神崎は、男に向かって言葉を吐き捨てた。
「……どっか失せえ。このお嬢のまえにも、流の前にも二度と顔みせんなや。お前みたいなクズ、あいつの傍に相応しくあらへん」
 男は震える足で立ち上がった。かばんを拾い、もつれた足を動かしながら、病室を飛び出しかけ。
「……それでもま」
 神崎が煙草に火をつけながら、吐いた言葉を耳にした。
「このお嬢に肝臓やったんにだけは、礼をいうとくわ」

 歌は、繰り返す。
 涙を拭いて笑ってと。生きて僕のために笑ってと。
 常に笑って、なんて俺はこの歌みたいに贅沢は言わへん。あの、死の恐怖に怯えながら生きている人々は、わざわざ言わんでも、痛々しい努力で笑おうとしとるからや。
 だから、俺は、そんなこと言わへん。
俺は、
 泣け。怒れ。俺の身勝手さを。俺のエゴのために、辛い思いをさせてまで生き延びさせた、俺を怒鳴りつけぇ柳。
 なんてことするんやと。お前のせいでしんどいめに遭うとるやんかと。
 詰ってえぇから。

 目覚めて俺の音楽を聴け。
 お前のために紡ぐ曲を。
 柳の木が、河の流れのせせらぎに、耳を傾けるかのように。

「……ホンマに、眠ってるだけなんすか?」
「らしいで」
 ふ、と紫煙を吐いて、神崎は眠る女を見下ろした。可愛い弟分が必死になって救おうとしていた女を、自分は今日初めてみる。ずいぶん幼い容貌をした女だ。けれどもあの流をあそこまで変えたのだから、それなりの人間であるのだろう。
「……ほら、お前謝れよ基道」
「……あ、はい。……その、悪かったなぁ」
 基道は神崎のほうにちらちらと視線を送りながら女に謝罪した。あまり誠意のこもっていない謝罪であったが、ここに来ただけましというものであろう。
(……本当に、早く目ぇ覚ましたってくれや)
 流は、死んだような目をした少年だった。性根はとても真面目で優しく、真っ直ぐであるのに、少々堪え性がないばかりに、大人の理不尽をまともに受けてしまった。隣の基道もまたその一人である。自分は果たしてどうであったのか、神崎はもう忘れてしまった。
 光を浴びられる世界に戻れるのなら、戻してやりたかった。可愛くてたまらなかった弟分は、違う世界に生きるべきであることを、神崎は早々から知っていた。
 いつも詰まらなさそうな顔をして、生きていた後輩。
 流れを塞き止められた水のように、澱み、腐っていく。
 この女は、きっと流れるべき道を後輩に指し示したのだ。水辺に浮かぶ葉が、ほんの小さな流れに沿って、道行くように。
「あ、神崎さん看護婦来ます!」
 基道の声に、神崎は舌打ちした。先ほど、ナースコールを押したのだった。煙草の臭いが部屋に充満している。神崎は窓を勢いよく開けると、壁に押し付けて消した煙草を投げ捨てた。風が吹き込み煙草の臭いを掻っ攫っていく。
 河のせせらぎが、もう終わりかけの、蝉の鳴き声に混じって聞こえる。もう、夏も終わる。
 強風が再び吹き、ばさりとカーテンが翻った。それに乗じて女の布団が、ふわりと浮かぶ。
「ちっ……?」
 女の布団が飛ばされかねない、と再び舌打ちしかけた神崎は、一切の動作を止めた。基道もまた、自分の視線の先に気づいたらしく、微動だにしていない。
「ちょっと、病室内では煙草はご遠慮……え?」
 飛び込んできたナースが、煙草の臭いに気づくなり怒鳴り声を上げかけ……そこで、声は止まった。
 代わりに響いたのは、かすれた女の声だった。
「……りゅう、は?」



back//next//index