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第八章 潜入する救援者 1


 デルリゲイリア王城の奥まった場所に位置する塔。窓という窓に飾り格子の嵌ったそこは、かつてマリアージュが軟禁されていた塔である。
 その一室。円天井を玻璃で覆った、展望室めいたちいさな部屋に、マリアージュはロディマス、そしてアルヴィナと共にいた。
「うん、これでいいかしらねぇ」
 アルヴィナがぱんぱんと手を打ち鳴らす。床に描かれた魔術の陣が緑に発光し、文字列が宙に浮きあがり始めた。
 マリアージュは顔をしかめた。ロディマスと共に正装して来いと彼女に言われて、その通りにしているわけだが、アルヴィナが何をしようとしているのか、さっぱりわからない。
「これ、何の魔術なの?」
「転移の陣よ」
 アルヴィナがさらりと答える。
 隣でロディマスが唖然とした。
「あの、転移って聞こえたんだけど」
「えぇ。あ、もしかして転移が何かわからない? 空間跳躍とも言うだけど、内在魔力を分解して外在魔力の流れに乗せて指定の場所に再構築を……」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! できるのかい!? そんなことが?」
 ロディマスがアルヴィナの説明を差し止める。彼の隣でマリアージュは遠い目をした。アルヴィナならする。というか、体験させられた記憶がある。おそらく、アレだ――雷雨の夜。襲撃を受けた馬車から、ミズウィーリに戻ったときの。
 アルヴィナが肩をすくめ、部屋の円天井を見上げた。
「少なくとも、あなた方のご先祖は常用していたみたいよ。だからこの部屋があるんでしょ。わたしは魔力を補充して調整しただけ」
「その……人だけで、転移、は、しないの?」
 マリアージュは過去の件を匂わせて尋ねた。アルヴィナが、あぁ、と、意を汲んで目を細める。
「しない。魔力が馬鹿みたいにかかるし、飛ぶ本人が明確に場所を想像できないと、魔力の再構築がしにくいからね」
 あのときの胃が捻じれたような、得も言われぬ吐き気はつまり、うっかり死にかけていたからこそか。身体が霧散していた可能性に思い至って、マリアージュはげんなりする。
 マリアージュの心中を知ってか知らずか、アルヴィナはにこにこ笑って壁を撫でた。
「多分、デルリゲイリア城を建てたばかりのころに造ったんでしょうね。大スカナジア――《魔の公国》にお嬢さんを輸出するために。でも、そのうち調整ができなくなって、使えなくなった」
「調整さえすれば使えるのかい?」
「もちろん。魔術は何でもそうよ。……魔術が廃れたのは別に魔力だけの問題じゃないわ。便利さだけを享受するだけになって、働きの原理を正確に理解する人々が消えたことこそが、荒廃を加速させたのでしょうから。……さてさて」
 彼女がマリアージュの手を取って部屋の中心に招く。宰相くんもおいで、と、彼女は言った。
「目を閉じて、気を楽にしてね。大丈夫、一瞬で飛べるよ」
「と、飛ぶって、どこに?」
「ロディ、この程度で狼狽えないでよ。アルヴィナが非常識なのは今に始まったことじゃないでしょ……。っていうか、これ、大スカナジアへ転移するためのものだったのよね。ペルフィリアに出口を変えられるの?」
「調整したって言ったでしょ。現地に目印になるものを置いてもらう必要があるんだけど、それはダイにしてもらったからね。安全なところに出ると思うよ。きっとね」
 行き先はペルフィリア王都である。《遣い魔》を通じたダイの話を聞く限り、戦地のど真ん中である。安全な場所はないように思えるのだが。
 嫌な予感をひしひし感じるが、ここで引くわけにはいかない。化粧師という無力な立場で突っ込むことを躊躇わなかった臣下と、彼女を戦地に送らざるをえなくなった原因の毛艶のよいクソ狸がいるので。
「あっちに着いたらここにつながる一時的な陣を敷くし、何かあったらさくっと退避しましょ。それじゃあ、しゅっぱつー!」
 アルヴィナが明るく声を上げる。これから行楽地へ向かおうかと言わんばかりの軽さである。
 話すうちに部屋中の魔術文字が点灯する。視界が砂のように崩れ、零れ、別の景色に再構築されていく。
 たどり着いた場所は狭く暗い部屋だった。
 木製の雨戸の隙間から、淡い光が漏れていて、家具も何もない、殺風景な室内だと知れた。
 むき出しの床に置かれた銀製の円盤を中心に、マリアージュたちは立っていた。
 ロディマスが口元を抑えて膝を突く。額にはひどい脂汗が浮いていた。
「ちょ、ロディ、あんた大丈夫?」
「なっ……あっ」
「あー、初めての転移酔いね。しばらくしたら収まるよ。マリアもそうだったでしょ?」
 アルヴィナが銀板を拾い上げて歩き出し、雨戸を押し上げる。潮風が室内に吹き込んだ。
 彼女が窓の外を見渡して呟く。
「ダイからは、港にある施設の一角だって聞いたけど……どのあたりなのかしら」
 マリアージュは外を見た。
 彼方には水平線。夜なのに異様に明るい。水面が燃えるような橙に輝いている。
 いや、あれは、灯りを照り返しているのだ。
 その光の塊がとてつもない勢いで近づいている。
「あっ、あっ、アルヴィナ!」
「あらぁ」
「陛下!」
 跳ね起きたロディマスがマリアージュを連れて扉の方へ駆け出す。
 光が室内に溢れ、とてつもない衝撃が、マリアージュたちを襲った。


 放たれた矢に似た速度で、無補給船の側面が、波頭の縁に衝突する。がががが、と、硬いものが削れ合う鈍い音。絶え間ない左右上下の振動。乗馬中の疾走感より早く、無作為で、乱暴なそれに胃の中のものが競り上がる。
 海流の関係で港への乗り付け方が乱暴になる。事前に聞いてはいたが、ここまでだとは思わなかった。
 ようやく船が止まり、廊下の手すりに結んでいた帯紐を解こうとしたとき、アッセはその指が震えていることに笑ってしまった。呼吸を整えてから、廊下で待機していた麾下の騎士たちを振り返る。干上がった池から打ち上げられた魚たちのような彼らがそこにいた。死屍累々とはこのことだ。
 吐くな、体勢を立て直せ、と、命じていると、彼らの間を平然とした足取りで歩いてくる娘がいた。
「ヤヨイ殿」
「大丈夫ですか? 一応、袋と手ぬぐいを支度しましたけれど」
 ヤヨイはそう言って、連れてきた数人の船員たちに、騎士たちの世話を依頼した。船員たちは商工協会所属の者たちだ。ヤヨイを恭しく扱っている。アルヴィナがどこからか「借りてきた」と言うこの魔術師の娘も、ほとほと謎な存在だった。
「アッセ様?」
「あぁ……すまない」
 アッセは体勢を立て直した。目の前で立ち止まるヤヨイは微笑んで首を横に振った。濡れた手ぬぐいを差し出す。
「どうぞ、お顔を拭くだけでも。……強行軍でしたし、船室不足のせいで、廊下でお過ごしになったのですもの。お疲れも当然です」
「すまない。ありがとう」
 ヤヨイに勧められた通り、アッセは手ぬぐいで顔を拭いた。手ぬぐいを彼女に返却してひと呼吸おき、整列、と、号令をかけた。部下たちの顔を見ながら、ここまでの道程を振り返る。
 デルリゲイリア東部でカースンの一族を掃討し、制圧した砦で事後処理を行っていたアッセの下に、ヤヨイがマリアージュとロディマスの親書つきで現れた。彼女はダイについてクラン・ハイヴへ行っていたはずだが、戻ってきたその足でアッセの下へ来たとのことだった。
『アッセ様には急ぎ、三十人以上つれて北に向かっていただきたいのです』
 ペルフィリアの王都で大陸会議が開かれる。
 正気ではないと思えたが、マリアージュたちはペルフィリアへ発つらしい。ヤヨイ曰く、移動に禁じ手を使うので、マリアージュとロディマスは護衛を帯同しない。近衛は別途にペルフィリアへ向かい、彼らが到着するまでの護衛をアッセたちで補いたいというのが、兄からの手紙にもあった。
『ここからの方がペルフィリアには明らかに遠いが』
『ゼムナムから出航した無補給船がここから最も近い北の海に接岸する予定です』
『……港がないのに?』
『えぇ、ですから、崖を下ります。それを踏まえて、部下の皆さまを選出し、至急お向かいください』
 戦地のど真ん中で国家の首脳陣を集めて会議をすることに比べればまし、といった程度の、とんでもない要求だった。
 絶句するアッセに、ヤヨイは眉をへにゃりと曲げた。
『わたしが、お手伝い、いたしますので……』
 魔術で生み出した縄を頼りに、海に真っ逆さまに落ちた経験は、きっと誰もの胸に刻まれたであろう。
「テディウス卿」
 隊列を組み終えると、具合よくこの船を出したゼムナムの宰相が現れた。
「カレスティア卿」
「いささか乱暴な到着になってしまいましたが、さすが、皆さまご無事そうで何よりです」
 そう言うゼムナム宰相サイアリーズ・カレスティアもまた、接岸に際する衝撃や疲労を微塵も感じさせず、朗らかに笑っていた。
 彼女はデルリゲイリアの一個中隊を一瞥し、満足げに頷いたのちにアッセに告げた。
「先に出した兵から、現地入りしていたあなたのお国の騎士の方々と合流した旨、連絡がありました。共にお越しくださいますか?」


「無茶苦茶するな……」
 それが港の惨状を見た、ファビアンの正直な感想だった。
 巨大な湾港に無補給船が半ば乗り上げている。寄港した、というより、速度を付けて衝突した、と、表現する方が正しい。ファビアンたちが宿を取った施設はぎりぎり無事で、目と鼻の先に船の側面があるという有様だった。
 削れた波頭から湧き上がる粉塵が、船の照明を陰らせている。船の中から出てきた兵たちは、制服から判ずるにゼムナムのものだ。ファビアンは彼らに接触して、中にいる責任者たちと繋いでほしいと告げた。
 船に引き返す兵と入れ替わりに、施設の様子を見に行っていたベベルが戻ってくる。
「ベベル、皆は大丈夫だった?」
「あぁ。大事ない。そっちは?」
「代表者につないでほしいって言ったとこ。こっちの人員については話したよ」
「アーダムは降りてきたか?」
「いないけど……アーダムいるの?」
「こんな無茶するなら、商工協会の上級会員の承認がいる。乗船しているはずだ」
「アーダムとは、アーダム・オースルンド殿のことですか?」
 デルリゲイリア騎士のユベールが挙手して問う。ファビアンは頷いた。
 アーダムはダダンやベベルと同様、ドッペルガム建国に尽力した仲間で、いまはゼムナムで海運業を営む、商工協会南支部の長である。ファビアンは商工協会内部の規約に詳しくないが、協会北部の長たるベベルが言うのだから、アーダムはいるのだろう。
 クレアがファビアンに耳打ちする。
「ファービィ様、カレスティア卿です」
 船側面の舷梯から兵を引き連れて人の群れが現れる。角灯に照らされる団体の中央を歩く人物は、男装をし、杖を突いた女傑だった。この大陸の南部を統治する国家、ゼムナムの宰相サイアリーズだ。
 彼女の傍にはデルリゲイリアの騎士服を身に着けた男が複数人いる。ランディがぎょっとした顔で、団長、と、呻いた。
 サイアリーズは足が悪く、彼女に合わせた歩みは遅い。ファビアンたちは彼女たちに急ぎ足で距離を詰めた。
 サイアリーズが微笑む。
「お久しぶりですね、バルニエ殿。ご壮健そうで安心いたしました」
「わたしもです、カレスティア卿。このような場所でお会いすることになるとは思っておりませんでしたが……」
「ランディ、ユベール」
 サイアリーズの隣でデルリゲイリアの騎士が声を上げた。明かりに照らされた顔を見て、ファビアンはようやく彼がアッセ・テディウスだと認識した。
 無事の再会を喜び合う彼らに申し訳なく思いつつ割って入る。
「失礼。テディウス卿もご無沙汰しております。ドッペルガム筆頭外務官、ファビアン・バルニエです」
「こちらこそお久しぶりです。ルグロワ市から、ダイにご同行いただいていたとのことですが」
 ランディとユベールがいながら、ダイの姿が見えないことを不審に思ったのだろう。アッセの視線が彼女を探す。警備対象を失っているランディたちが焦り顔だ。どう説明するかなぁ、と、ファビアンはひととき天を仰いだ。
「ダイが不在の件も含めて、現状をお話したいのですが、マリアージュ女王陛下も船でお越しでしょうか? いま、この場にはどなたがおいでで?」
 ファビアンの問いにサイアリーズが即応する。
「うち、ドンファン、ファーリル、ゼクストの女王陛下と宰相閣下。国章持ちもお越しです。兵はうちの比率が多いですね。デルリゲイリアはテディウス卿を筆頭に一個中隊。非戦闘の人員含めて、総勢二百人弱。追加の兵は別働で連隊を引っ張ってきています。もうすぐこっちに到着するでしょう。マリアージュ女王陛下は――」
「おられない。兄上……テディウス宰相と共に、我々に先行してこちらに向かわれた」
「つまり、遅れてこられる……?」
「わたしならここにいるわよ」
 張りのある声がファビアンたちの会話を中断させる。はっとなって振り返ると、角灯を手にした協会の少年に先導される三人分の影が見えた。
 唐突な、しかも街方向ではなく、施設からの登場に、全員がぎょっと目を剥く。
「ま、マリアージュ女王陛下……」
「兄上……?」
「あの、どちらから……?」
「詳しいお話はのちほど」
 肩の埃を払うような仕草をして、マリアージュがため息を吐いた。
「時間がないのでしょう? 現状とこれからのお話を、さっそくさせていただけないかしら、カレスティア宰相」
 呼びかけられたサイアリーズが瞬き、おかしそうに笑う。彼女は一礼して、もちろんです、と述べた。
「ひとまず船内へ。皆さまのところへご案内いたします」


 マリアージュは無補給船に初めて入った。
 そもそも船自体が二度目である。一度目はレイナ・ルグロワが所有していた遊覧船。あの船も充分に狭さを感じさせない配慮が成されていたが、大陸間を運行する大型船はそれをはるかに上回って、船内はどこかの邸宅のような設えだ。
 一等船室には大陸会議に参画する各国の代表者が揃っていて、本当にこの短期間で引っ張ってきたのかと、サイアリーズの行動力に呆れるほかなかった。
「我が国の陛下と宰相はもう間もなく、こちらへ到着するとのことです」
 入船直前に《遣い魔》を腕に留まらせていたファビアンが言った。
 ドンファンの女王ファリーヌが驚いた声を上げる。
「早くありませんか!?」
「今回の件に間に合わなければ事ですので……。急いだそうです。クラン・ハイヴのリア=エル議長とジュノ殿も連れておられます」
 ファビアンの弁解を聞くかぎり、ドッペルガムもマリアージュたちが使ったような禁じ手を持っているのかもしれないと、マリアージュは思い至った。ドッペルガムの魔術師長ユーグリッド・セイスはアルヴィナほど荒唐無稽ではないが、それでも他の追随を許さない、メイゼンブルに生み出された魔術師だ。
 今回の進行役もひとまず女王のうち最年長たるファリーヌがするらしい。気苦労が窺える顔で彼女は呻いた。
「とにかく……欠けはないということですね。ペルフィリア王都はどのような現状なのですか?」
「大きくは四つに分かれています」
 先に王都入りしていたファビアンが答える。聖女教会の支援を受け、王都を占領し、女王たちを弑さんと王城に潜入した暴徒。それを防ぐために暴徒と王城の前庭で戦闘状態にあるペルフィリア軍。軍は王都の外にも包囲網を敷いている。三番目は怯え隠れる現地住民。最後に彼らの生活を支援する密命をセレネスティ側から受け、ファビアンたちの潜入も手助けした商工協会。
 スキピオから遣わされた、ペルフィリア軍の交渉人が発言する。
「敵方は火薬を持ち出していて、人員不足もあり制圧に手を焼いています。手をお貸しいただけると助かります」
「火薬?」
「物騒な……どれぐらいの量を?」
「少なくとも火薬を使って、王城の門を破壊しています。断続的に爆発音が聞こえることから、かなりの量を所持しているかと」
「陛下、わたくしが参りましょう」
 と、申し出た男はマリアージュの知らない顔だった。服装からして、ゼクストの《国章持ち》である。
「爆発があっても、わたくしなら防御できるかと。兵と共にお遣わしください」
「いいでしょう。……アクセリナ陛下、兵をお貸いただいてもよろしいでしょうか。カルーロはわたくしの自慢の魔術師です。先行して応援に向かわせたいのですが。セレネスティ様たちの安否に関わることでしょうから」
「こちらこそ、大切な《国章持ち》をお貸しくださり、感謝します。兵のことはよいな、サイア」
「もちろんです」
「ご助力、ありがとうございます」
 ペルフィリアの交渉人が礼を伸べ、部下にゼクストの魔術師と打ち合わせて動くように告げる。同時にサイアリーズが近衛のひとりを行かせた。複数人が船室から一気に退室していく。
「港を中心に兵を展開していますが……。応援を待たずに小隊を巡回させますか?」
「まずは状況説明と方針の決定、条件の締結を終えてしまう方がよろしいと存じます。暴徒と民の見分けもつきづらいですし、ペルフィリア軍のスキピオ殿から兵の動きについての依頼もあります」
 ファビアンが早口で提言する。卓を囲む皆が頷いた。
「続けてください、バルニエ外務官」
「かしこまりました。それでは先に潜入した我々の動きから。我々はこちらのお方、商工協会北部の長であられるベベル・オスマン氏のご助力を得て王都入りに成功し、二手に別れました。一方は我々、ペルフィリア軍との接触を試みました。セレネスティ陛下方の説得へは、デルリゲイリアのセトラ師が」
「……あの、説得に向かわれたというのは、王城に、いらっしゃる、ということですか?」
 ファーリルの女王が控えめに尋ねる。ファビアンが苦笑して首肯する。
「えーっと、はい。王城の正門が破られるときを狙って、正面突破で」
 彼の説明によればダダンとブレンダを伴って、馬で暴徒たちの中を突っ切って乗り込んだらしい。
 彼女は化粧師ですよ、と、どこからともなく悲鳴が上がり、そうなんですけれど、と、ファビアンが焦った顔で弁解している。
 ダイの主たる自分に同情の視線が刺さり、マリアージュは頭を抑えながら、大丈夫です、と、言い切った。
「うちのが無茶をするのはいつもですから、バルニエ外務官に罪はございません。ご心配いただけるなら、ことを進めましょう。早急に」
 通常であれば、より危険な場所へ赴くなら、男で体力もあるファビアンの方だと言いたいのだろう。が、彼らの判断は間違っていない。イェルニ兄弟を引きずり出すには適任だと思ったから、マリアージュが彼女を渦中に遣わしたのだ。
 しかし案じてもらえるならありがたい。より焦った顔で討議を進め始める女王たちを眺めながら、マリアージュはため息を吐いた。


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