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間章 枝葉を広げる 3


 開店準備で忙しくなる日暮れを前にダイたちは店を辞去した。貴族街の検問までの往復には馬車を使う。四人乗りの簡素な箱馬車だ。
 馬車の振動に身を任せながら、ギーグとの会話を胸中で反芻していたダイは、斜向かいに座すアッセに問うた。
「アッセ、貴族の皆さんって商人の人たちとどう付き合っているんですか?」
 窓から外を眺めていたアッセがダイへと向き直る。
「どう、とは?」
「えぇっと……。商人と契約しているのは家なのかそれとも個人なのか、とか。付き合いはどれぐらい深いのか、とか……」
 ミズウィーリ家は専属の商人を持っている。ただし、彼とマリアージュ個人との関係は希薄だ。彼女に代わって執事長や侍女頭が必要なものを取りまとめて発注している。
 アッセが腕を組んで思案するそぶりを見せた。
「……家によって様々だろうが、私とロディマスは個々に専属の商人を持っている。しかし商会としては同じになる。ドルジ家と契約している商会だ」
 ドルジはロディマスとアッセの母、先代女王エイレーネの生家だ。
 アッセが説明を続ける。
「どの家も古くからの付き合いの商会があり、そこに属する商人を専属として持っている。付き合いの深さは……そうだな。どこも薄い、ということはないだろう。信頼している商人でなければ、身の周りのものは発注できない。私はむしろ、陛下があまりにも商人にこだわりがなくて驚いた」
 マリアージュの衣装は担当の女官が決定している。ミズウィーリ時代は侍女が決めていた。好き嫌いははっきりと口にするが、かといって好みに煩いわけではない。詳しいものに任せる、といえば聞こえはいいが、ようするに丸投げである。
「皆さんって商人の人からの意見に耳を傾けます?」
「無論だ。流行となりそうなものの情報を仕入れてくるのは彼らだからな。……そういえば女王選のときも、化粧が話題になっていた……」
「へー、そうなんですね」
「他人事のように言うな。君の化粧のことだったんだろう?」
「え、あぁ。そういえば話題になっているって、いわれたような?」
 当時、もの珍しがられてマリアージュの招待が増えたらしい。
 好評ですよ、と、言った声は誰のものだったか。
 アッセが呆れ返った顔でダイを見る。
「……君は自分の評判に無頓着だな」
「えぇ。そうだったから、いま、困っているんでしょうね」
 自戒を込めたダイの言葉に、アッセが慌てて謝辞を述べる。
「あぁ、すまん。そういう意味ではなかったんだが」
「わかっていますよ。助かりました。ありがとうございます」
 ダイはアッセに微笑みかけた。
 彼が気を病む必要はない。ダイ自身が悪いのだ。
 ダイは評判をもっと気に掛けなければならなかった。風評をよくすべく、手を打たなければならなかった。
 ダイの名声はマリアージュのそれに直結するのだから。
 マリアージュを、無能に国章を与えた女王としてはならない。
「……私も訊きたいことがあるのだが、いいか?」
「どうぞ。なんでしょう?」
 アッセから質問されることは稀だ。彼はたいていの疑問は自力で調べて解決する。裏町までの往復に用いる馬車の手配も、彼はダイが知る以上に詳しかった。
 アッセが精悍な顔を厳しく歪める。
「……君の友人たちは、イェルニ卿を、知っているのだな」
「イェルニ」
「ディトラウト・イェルニだ」
 思いがけない名。
 息が、止まる。
 ひた、と見つめ返したダイに、アッセが歯切れ悪く言った。
「彼はミズウィーリ家の当主代行だった……と、聞いている」
「……はい」
 ダイは首肯した。
 それ以上の言葉を、上手く紡ぐことができなかった。
 ――アスマの娼館を出る間際のことだ。
『……そういえば、あの美人のお兄さんは元気かね?』
『美人のお兄さん?』
『ヒースだよ』
 ミゲルが口にした名に、ダイは身体が凍りつく思いをした。
『だれだそりゃ』
『ダイのお仕事場のおにーさんさね。ものすごぉおっい、色男』
『ほほぅ? 俺を前にして別の男の話をするなんざいい度胸だなぁミゲル』
『そこでいちゃつかないでください。ちゃんと部屋借りてくださいよ、ふたりとも』
 アスマの書斎を安宿代わりにしないでほしいと訴えて、ダイはミゲルの問いに改めて答えた。
『忙しくしていますよ』
 嘘は言っていない。あの男はいまごろ、ペルフィリアで政務に勤しんでいるはずだ。
 そうかね、と、ミゲルは微笑んだ。
『よろしく言ってほしいね。うちとこの店もずいぶん補償してくれた。……またふたりで遊びにきたらいいさね』
 ミゲルとの会話を思い返しながらダイは口を開く。
「彼とは……」
 喉が渇いて張り付く。
 ダイは唾を嚥下した。
「街に、一緒に下りたことも、ありましたから」
 そうか、と、相槌を打つアッセに頷いて、ダイは会話を打ち切った。
 流れる外の景色に視線を移し、瞼を閉じる。
 あの男とは――……こんな風に馬車に乗って、街に下りた。
 そんな、やさしい時間が、あった。


 思い出はいまなお鮮やかだ。
 馬車の中、書類の文字を追う真剣な眼差し。ミズウィーリの屋敷に戻って馬車から下車する際に差し出される補助の手。玄関広間を姿勢よく歩き出す広い背。ふと、立ち止って振り返り、低くも耳に馴染む声でダイに指示を出す――……。
『ディアナ』
「ダイ」
 広間まで迎えに来たティティアンナを掴まえて、二、三の言葉を交わしていたアッセがダイを呼んだ。
 ダイは現実に立ち返って苦笑した。
 胸は痛まない。そのような時期は過ぎ去ってしまったから。
 あのころのすべては薄ら氷を隔てた向こうのように遠い。
 はい、と応じたダイに、アッセが言葉を続ける。
「陛下はまだ居室においでだそうだ。このまま向かうか?」
「いえ、いったん部屋に戻って着替えます。町の匂いがかなり移ったと思うので……」
 特に娼館は強く乳香を焚いている。貴族の身巻く種類の香とは別のものだ。このまま歩き回りたくはない。
「そうだな。私も着替えよう」
「ではお湯をご用意いたします」
 ティティアンナが普段とは異なる丁寧な物言いでアッセに申し出る。頼む、と、念押しした彼に一礼し、その場を去っていくティティアンナをダイは追いかけた。
「どうしましたの?」
 隣に並んだダイにティティアンナがすました声音で問う。
「別にふたりだけならいつも通りの口調でいいですよ」
「もー、そんなわけにいかないでしょ」
 ティティアンナは眉根を寄せて囁いた。
「ちゃんとしてなきゃハンティンドンさんに怒られちゃう」
「相変わらず厳しいですねぇ、ハンティンドンさん」
「ホント。でもいいわ。マリアージュさ……とと、陛下、が、帰ってきてから急に元気になったから。リースは可哀想だけど」
 侍女頭の業務を引き継ぐリースはローラからの細かなお小言に頭を痛めているらしい。
「お疲れさまですねぇ、リース。あ、私の分のお湯は自分で運びますから」
「ううーん、本当は駄目なんだけど甘えちゃおう。ありがと。……っていうか、ダイにも本館の部屋を用意すべきって言われてたのに、断ってよかったの?」
「いいんですよ、ここでいまさら客室なんて用意されたら窮屈ですし」
 使用人棟の部屋で事足りる。ダイの主張にティティアンナはふふっと笑って、すぐさま、天井へ盛大なため息を吐いた。
「あぁ、お湯を持って行くの緊張するなぁ。ダイ、一緒にいかない?」
「アッセのところに? 一緒に行ってもいいですけど……どうして緊張するんですか?」
「だって先代さまの皇子さまよ!? 粗相をしないか、さすがの私でも気にするよ!」
「皇子……あ、うんそうですね。皇子皇子。大丈夫ですよ。アッセはそゆとこちょっとぼーっとしてて、ハンティンドンさんみたいに煩くないですから」
 私も助かってます、と、ダイは胸を張る。
 ティティアンナにはなぜか呆れた目で見られた。
「……前から思ってたけど、ダイってすごいよね……?」
 そのすごい点とやらは残念ながら教えてはもらえなかった。
 給仕室に到着すると、ティティアンナは諦めた顔で言った。
「私、ちゃんとひとりで行くわ……」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。がんばる」
 雑談しながら湯を汲み終える。そしてふたりで湯瓶を抱えて使用人棟へと歩く道すがら、本館を出る扉の前で、ダイは廊下の角に見えた見慣れぬ顔を指摘した。
「あれ、お客さま?」
壮年の婦人が下男に大きな革鞄を運ばせている。
「あれは……楽器、ですか?」
 ダイの問いにティティアンナが頷く。
「マリアージュ様が躍りの練習をなさるから呼ばれたのね。ほら、次の安息日が明けたら、茶会と晩餐会が目白押しだから」
「え、そんなにみっちりするんですか?」
 貴族たちとの距離感を埋めるために、ミズウィーリ家で様々な会を催そう。ロディマスがそう言って準備を進めていたことは知っている。が、そこまで詰め込むとは聞いていない。
「予定表、まだもらってない? 懐かしいぐらいに忙しいよ。あのとき以上かも」
「ここに帰ってきて早々、私、出かけてましたからね……」
 ダイはまだ見ぬ予定表の黒さを覚悟した。
 しかし、好都合かもしれない。
 ティティアンナと別れて自室に戻る。下男たちが馬車から運び込んだ荷の梱包を解いて整理し、衣服を脱いだ。
身体を湯で拭うさなか、己の顔が姿見に映る。
 性の匂いがしない、と、たまさか言われる、母に似た、中性的な面差し。
 ダイはしばらくその顔を眺めていたが、魔の告げる時間の経過に手早く着替えを済ませると、化粧鞄を抱えてマリアージュの居室へ急いだ。
 部屋には円卓を挟んで座るマリアージュとロディマス、そしてダイに先んじたアッセがいた。ダイと同様に着替えを済ませているアッセは、ずっといたかのように扉の脇で直立している。
 ダイは扉を通りぬけざま、彼ににこりと笑いかけてから、マリアージュたちに歩み寄った。
「ただいま戻りました」
「おかえり、ダイ」
 マリアージュの対面に座るロディマスだけがダイの挨拶に反応を示す。長椅子に沈み込んだマリアージュは報告書らしき紙面を睨み据えたまま微動だにしなかった。
「ダイ、見なさい」
 ダイの胸にマリアージュが紙を叩きつける。
「あんたがロディマスとこそこそした結果がこれよ! ものには限度があるでしょう!」
「……うわー、女王選と本当にいい勝負ですね」
 マリアージュから押し付けられたものは次の安息日から十日間の予定表だ。ティティアンナの予言通りだ。いや、それ以上か。紙に余白がない。
「もうロディマスとこそこそするのはやめなさい。私を通しなさい。必ず!」
「宰相閣下。限度を考えてくださいよ」
「え、何その僕が全力で悪いっていう言い方……」
「マリアージュ様は別にいいんですけど、ミズウィーリの皆が大変でしょう?」
 マリアージュ側からの声掛けで行なわれる社交だ。招待する回数が女王選のときより圧倒的に多い。支度をする使用人たちが過労死してしまう。
「あぁ、それは盲点だったね」
失念していた、と、アッセが渋い顔をする。
「城から呼ぶ増員の数をもう少し増やすかな」
「お願いします。手順を色々とばしているんですから、問題が起きないようにしないと」
 今回の茶会や晩餐会の予定はロディマスの独断専行である。軽口を叩き合えるマリアージュとロディマスの関係だからこそできることだ。
 マリアージュがダイの腕をばしりと叩いた。
「ちょっとダイ。私は別にいいってどういう意味よ」
「今の課題は国政を円滑にすることでしょう? 問題解決のためにも、陛下は頑張ってくださいねっていうことです」
 今のマリアージュは貴族たちとも政務官とも距離がある。前者との関係なら社交次第で改善できるとロディマスが言うのだ。マリアージュには奮闘してもらうしかない。
 ダイ自身も、動かなければ。
「で、忙しいついでに陛下と閣下にお願いがあるのですが」
「……ダイが畏まると気味が悪いね」
「あら、初めて意見があったわね、ロディマス」
「ヒドイ言いぐさですね。まぁいいですけど。……実は、マリアージュ様のお化粧品を変えようと思っているんです」
 ダイの言葉にマリアージュが訝しげに首をかしげる。
「アルヴィナがいないから変えるかもしれないって言ってたわね。予備を引き取ってきたんでしょ? いいものだったの?」
「いえ、アルヴィーが作ったもののほうがよさそうなんですが、そうじゃなくて……」
 意味が正しくロディマスたちに伝わるように、ダイは頭を振り絞って説明する。
「ミズウィーリを含む上級貴族十三家。それぞれの家が抱えている商人からいいものを買い取ろうと思うんです」
 化粧品は種類が多い。それを各家の専属から最低でも一種ずつ、場合によっては複数種、購入する。
「それで、茶会か、晩餐会か、時間的に余裕がある方で、品評会を行いたいんです。そこに専属の商人の方々を連れてきてもらえるよう、招待する方々に打診してほしいんですよ」
 ロディマスが顎をしゃくった。
「……かなり急だね。それこそミズウィーリで行うには無理があると思うけど?」
「これは急ぎではないです。品評会自体は城に戻ってからでも、次の社交の時期でも構いません。商人の人たちだって、商品を準備する時間も必要でしょうし」
「まぁ、彼らは今日明日に揃えろって言われたらするだろうけどね。……それで? 急にそんなことを言い出した真意は? 何かあるんだろう?」
 ダイはアッセを見た。彼はダイと急に目が合ったことで顔に緊張を走らせた。
 ダイの説明に不足があれば彼には補足してほしいところである。
「今日、会ってきた知人は、革細工の工房を束ねているひとなんですが……彼が言っていたんです。商人は、味方につけておいたほうがよい、と」
 マリアージュ、ダイ、ロディマス、アッセ、そしてルディア。
 女王を中心とした面々の中で最も立場が危うく、周囲から理解を得られていない人間はダイ自身だ。むしろマリアージュの評判を貶めている。
 ダイがドッペルガムの女王に言われたことは全て、デルリゲイリア国内で皆が思っていることなのだ。
「私には政治向きのことはさっぱりですから、文官の皆さんに取り入ることは難しいでしょう。かといって貴族の人たちとの社交に力を入れても、数人は味方になるかもしれませんが、ほとんどの人は扇の内側で嗤って終わりだと思います」
 ダイは貴族ではない。後ろ盾となる生家がない。それもまたダイが王城で地位を確立できぬ原因のひとつなのだ。
 だから。
 攻めるなら、商人たちだ。
「商人たちは、生まれ育ちも見るでしょうが、一番は損得だと思います。私は……女王陛下から信を賜る、《国章持ち》です。私が女王陛下に使う品々。しかも消耗品ですから一過性ではない。契約さえ結べるのなら、ずっと継続した利益を見込める上顧客です。もっと言えば、化粧品の何かを切っ掛けに、別のものを陛下に紹介するかもしれない。……そんな存在を、内心はともかく、表立っては悪く言わないでしょう?」
 彼らは莫大な利益を生む金のたまごに、見限られる愚は侵さない。
「彼らを使って私の貴族への印象を操作します」
「……なるほど」
 ロディマスが腕を組んでダイに念押しする。
「本当に、できるかい? 商人たちを使って、貴族に君を認めさせること」
「させます」
 ダイは断言した。
 握り込んだ手の内側が汗ばむ感触を覚える。ダイは乾いた喉を唾で湿らせて、ロディマスに宣言した。
「私は――……マリアージュ・ミズウィーリ・デルリゲイリアに国章を賜った化粧師です。上級貴族に召し抱えられる商人たちなら、職人を見る目はあるはず。私は私の仕事で、彼らを認めさせます。その、彼らに」
 元からの得意先である貴族たちに伝えさせる。
 ダイが彼らとマリアージュを繋ぐと。
 ダイが商人たちから提案された品々を気に入れば、それだけ彼らを紹介した貴族たちの栄誉になると。
「……それに、商人たちと深いつながりができれば、貴族側の情報もたくさん得られるかと」
 ロディマスは微笑んだ。
「……いい案だと思うよ。協力しよう」
 彼は片目を瞬かせて、女王に視線を投げる。
「陛下の許可が得られるならね」
 ダイは彼女を振り返った。
 マリアージュは気だるげに頬杖を突いて言う。
「任せるわ。好きになさい」
 ダイは安堵に息を吐いた。
「ありがとうございます……」
「ダイ、詳しい話は明日にでも煮詰めよう。僕はそろそろ帰らないと。……陛下も! 踊りの練習のお時間ですよ」
 ロディマスが指先を出入り口に向けて軽く振る。いつの間にか扉の前で侍女のメイベルがマリアージュを迎えに立っていた。
「踊らなきゃ……いけないの……?」
「機会は少ないだろうけど、ないわけじゃないんだ。僕の足を踏まなくなったら練習時間を短くしていいよ」
「足を踏むのはわざとよ。決まっているじゃない」
「いえ、三回に一回は間違って踏んでますよね……」
 ダイは思わず指摘した。マリアージュはとにかく踊りが不得手で、女王選のときにも苦労していた。
「あ、待ってください、ロディ。もうひとつ頼みごとがあるんです」
 椅子から立ち上がったロディをダイは慌てて呼び止めた。
「あの、私にも踊りの先生をつけてほしいんですけど……。できれば男性側と女性側、両方を踊れるように」
 ダイが晩餐会などで女王に付き添うことはあっても短時間だ。マリアージュの舞踏の相手はロディマスが務めていたし、ダイが踊れなくとも問題はなかった。
 しかし、それでは駄目だ。
 真に女王の側近を自称するならば。
「男側だけじゃなくて、女の側も? ……女の恰好をするの?」
 マリアージュが疑わしげに詰問する。ダイは首肯した。
「普段はいつも通りだと思うんですけど……。ほら、私、頻繁に男に間違われるでしょう。普段は今のままで通して、こっそり女の人の姿になったら、別人として扱われませんか?」
 ガートルード家の晩餐会で“女装”した折には、“あの男”ですら、ダイをすぐに認識できなかった。
「そうしたら……普段と違う話を人から聞けることもあるんじゃないかって思いまして」
 情報収集だけではない。たとえば誰かに襲われて逃げるときにも、印象の操作の術を持つことは大事だ。
 情報屋のダダンが、ペルフィリア王城に囚われたダイを救った際、髪色を変えて追手を攪乱したときのように。
「ふむ。なるほどね。……となると、詩学の教師も必要だろうな」
 ロディマスはしばし黙考したのち、面を上げてマリアージュを見た。
「……陛下、僕がダイに必要そうな教科の一覧を作るから、教師を見つけてあげてよ」
 話の矛先を向けられたマリアージュが軽く瞠目する。
「私が?」
「だってダイは君のものだろう? 君が面倒を見るんだ。……これは宿題だよ。ミズウィーリの誰かに聞いたり命令したりしていいから、ダイにいい教師を見つけること。よろしいですね? 陛下」
 マリアージュがダイを睨む。
 それはそれはものすごい形相だった。
 ダイは自分の眉間を指差してマリアージュに進言した。
「マリアージュ様、眉間のしわに色粉が溜まりますよ」
「誰のせいだと思ってんの!?」
 マリアージュが叫ぶ。
「よろしくお願いいたしますと頭を下げなさい! このお馬鹿!」


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