第十章 懊悩する青年 4
『もし私に何かがあったら、貴女があの子たちを支えてやって頂戴』
女は窓辺に立ち、中庭で戯れる子供たちを見下ろしていた。憂いを帯びた横顔。作りは夫のものとよく似ていたが、女のほうが幾分老け込んでいた。それは彼女が直面している諸々の問題の複雑さを、如実に表していたようにも思える。
大陸の覇者が神の呪いに抵触して以降、女は加速度的に疲れ、老いていった。
(エイレーネ)
ルディアは胸中で密やかに、亡き友人の名を呼んだ。いまわの際まで国を案じた彼女はまぼろばの地で、この新しい時代の始まりを見つめているのだろうか。
聖堂には投票権を持った貴族が集められていた。彼らが注目する中、主神に祈りを捧げる聖女の像の前で大司教が声高に、女王候補の名を読み上げる。
用意された席から立ち上がった女王候補は、ゆっくりと像の前に進み出た。
取り残された他の候補者たちは青ざめ、あるいは憤怒に頬を紅潮させている。おろかなむすめたち。皆、何故自分が選ばれなかったのかわからぬようだ。
名を呼ばれた唯一の少女の顔は、緊張に強張っていた。その足取りは重く、靴に鉛が入っているのではないかとさえ、見るものに錯覚させる。
だが、それでいい。
皆の幸福を他力本願する、見せ掛けが美しいだけの娘はいらない。夫だった男のように、親の情と目先の欲に流される愚かな者たちなど、必要とあらばまとめて屠ってみせよう。
大司教から野薔薇の花冠を授けられることを、無邪気に喜んではならぬのだ。
玉座に慄く娘だからこそ、自分は彼女を選んだ。
皆もそれをわかっているからこそ、彼女を選んだ。
少女の張り詰めた顔を見つめながら、ルディアはまぼろばの地で眠る友人に祈った。
今日誕生した新しき女王に。
祝福を。
マリアージュが女王として無事選出されたとの報を受け取り、ダイたちは控えの部屋から聖堂前の広場へと移動した。女王の行進がある為だ。
宰相という最高位の官吏が女王を聖堂から玉座へと導くこの儀は、聖堂に入りきれなかった貴族たちに投票の結果を知らしめる役割を持っていた。女王の道として敷かれた絨毯の両脇に、黒と赤を基調とした隊服に身を包んだ騎士たちが剣を掲げて整列し、その合間に、花で頭を飾る童女たちが花かごを提げて待機している。彼らの背後には、貴族階級の子息から、侍従、ダイたちのような使用人までが、新しき主君を一目見ようと、押し合い圧し合いの様相を呈していた。
太陽が中天に差し掛かると同時に鐘が鳴らされ、聖堂の扉が開く。絨毯の道の最中、女王を待ち構えるように一人立っていた騎士が号令をかけると、皆は一斉に踵を打ち鳴らし、相対する者同士が一組となって、掲げた剣で天蓋を作った。
マリアージュが、男に先導され、女官たちを従えて現れる。
野薔薇の花冠を頭に戴き、黒に限りなく近い紅の外衣を羽織って歩くマリアージュは、些か緊張した面持ちだった。
その様子を少し離れた場所で眺めていたダイは、傍らに立った影に目を瞠った。
「……リヴォート様」
彼は視線をマリアージュに向けたまま口を開く。
「皆の傍へ行かないんですか?」
「私の身長、わかってます?」
嘆息を零して、ダイは訊き返した。
「あっちへいったら人に飲まれて見えなくなっちゃいます。離れてるぐらいがいいんです」
先ほど群集に取り込まれて身動きできなかったダイを見ているだろうに、この男は今更何を言っているのか。ダイは口先を尖らせた。
「リヴォート様こそ、私に何かご用ですか? 迷子になったことへの叱責?」
「叱ってほしいんですか?」
「私の不注意だということは自覚しています。ただ、温情があるなら、お屋敷に帰ってからにしてほしいなと思っただけです」
棘棘しい口調だという自覚はある。だが態度を改めるつもりはなかった。
「今更、叱責するつもりはないですよ」
「なら何用ですか? 用事がないなら、ティティたちのところへ行っていいですか?」
ダイは沿道に集うミズウィーリ家の皆を指差した。そこではアルヴィナが、感極まって泣き伏すティティアンナたちを慰めている。
「……さきほどの」
「……え?」
僅かに視線を伏せて呟いたヒースを、ダイは仰ぎ見た。
「先ほどの、話の続き、を」
「……なんで冷たくしてたのか、ようやく話してくれるつもりになったってことですか?」
男は肯定も否定も返さない。
「もういいですよ」
投げやりにダイは言った。
「もういいですよ、どうでも。私がいくらヒースと一緒にいたくても、ヒースが私のこと嫌いなんじゃ仕方がないです」
幾度尋ねても、返答はない――男の沈黙には、もう飽きた。
「でも仕事では、きちんと最低限のお付き合いしてください、リヴォート様」
「ディアナ」
喉の奥に。
熱が、詰まった。
ダイは下唇を噛み締め、硬く目を閉じた。泣くな、と自分に命じる。頭を振り、震える呼吸を整える。
名前を呼ばれた。
それだけで。
歓喜した自分に、動揺した。
その呼び声をどれだけ渇望していたかを思い知り、男の顔をまともに見ることができなかった。
静かに、彼は問う。
「……一緒にいたいですか? 私と」
「いまっ……さら」
「ディアナ」
「だから、最初から、そう言ってるじゃないですか……!」
熱い呼気を吐き出しながら、ダイは訴えた。
また、前のように話したい。前のように笑いたい。
前のように。
一緒にいたい。
それを拒絶し続けたのは、他でもない彼自身だ。
「……そうです、か……」
ぼんやりと呟いた彼は、マリアージュを見ているようで、その瞳に何も映していなかった。
底知れぬ虚無を蒼の眼に宿す彼は、迷子になって途方に暮れている子供のように見える。
どうしたらいいのかわからぬのはこちらのほうだ。下唇を噛み締めて、ダイは行進する女王に視線を戻した。
マリアージュの行く先を祝福するように、童女たちが花を撒いている。花弁が、風に踊っている。
ふと、手が触れた。
躊躇いがちに手のひらを滑った男の指は、ダイのそれの間に割って入る。触れた指のその先から、身体の奥がぎゅうとすぼまるような痺れが生まれて、息を呑んだ。
何を、しようというのか。
男の意図が読めずに緊張するダイの手を、ヒースは強く握りこむ。
いつもは肌刺すように冷たい大きな手。
その手を初めて、熱いと思った。
そっと様子を窺ったダイの目に映った男は、もう惑ってはいなかった。頼りなげな表情の名残は微塵もなく、遠いどこかを睨み据えている。
その視線の先を追ったダイは、眼前でぶわりと気流に巻き上げられた大量の花弁に瞬いた。マリアージュの前に撒かれていた花が、風に流されてここまで届いていたのだろう。
女王の誕生を祝福する赤と白の野薔薇が、蒼穹へと吸い込まれていく。
そしてまた雪のように、はらはらと足元に降り積もる。
その、美しい光景を。
自分たちは並んで、見つめていた。
何かに祈るように。
硬く、互いの手を握り締めたまま。
控え室に戻ってからほどなくして、兵士がダイを迎えに現れた。マリアージュが呼んでいるらしい。
彼女は後日行われる即位式の説明を受けるために、もうしばらくは城に残らなければならない。一方ダイたちは一足先に屋敷に戻る。帰り仕度に勤しむ皆を残し、ダイは兵士に付いて部屋を出た。
あれから、ヒースとは口を利いていない。彼がダイの手を握り締めたその意味を、歩いている間に考えたかったが、そんな余裕は微塵もなかった。
案内に従って足を踏み入れた城の奥はかなりかなり入り組み、内装を統一されているせいもあって同じ道を往復しているかのような錯覚をダイにもたらした。もう迷子は御免被りたいと嘆息を零しながら、注意深く兵士の後に続くことしばし、階段を上りきった先で待ち構えていた文官たちから簡単な身体検査を受ける。厚手の絨毯の敷かれた廊下では、数名が哨戒していた。どうやらここが、マリアージュが控える階のようだった。
「あぁ、来たのね」
通された奥の部屋で椅子にゆったりと腰掛けていたマリアージュは、ダイの入室に面を上げ、侍る女官達に指示を出した。
「下がって頂戴。少し休みたいわ」
「ですが」
女官たちが探るようにダイを見る。二人だけを残すことに、抵抗があるようだった。
「いいから、下がりなさい」
「……かしこまりました」
女官の一人が背筋を伸ばし、淡白な声音で承諾する。
「では何かございましたら、そちらの鈴でお呼びください」
そして彼女たちは一糸乱れぬ所作で礼をとり、きびきびと退室していった。
「あぁあぁぁ」
椅子の上で身体をずるずると滑らせたマリアージュが、盛大に唸る。
「うちって落ち目でよかったのかしら。付き人がずっといるってすごく窮屈。あんな陰気臭い顔に四六時中付きまとわれたら、鬱陶しくて気が狂うわ」
「大丈夫です」
ダイは微笑んだ。
「マリアージュ様がいつも通り振舞っていたら、すぐに世話を押し付けあって人数減りますよ」
「……私時々思うんだけど、あんたって私に殴られたくてそういうこと言うわけ?」
「は? なんのことです?」
「……まぁいいわ」
椅子の脇息に頬杖を突き、マリアージュは空いている手を気だるげに振る。
「喉が渇いたわ。お茶を淹れて頂戴」
「はい」
「もう仕度してあるから茶器に注ぐだけよ。間違っても茶葉弄らないでよ」
「……淹れるのそんなに下手なんでしょうか、私」
円卓の上に置かれた茶道具に歩み寄りながら、ダイは独りごちた。一度マリアージュの為に紅茶を淹れて以降、彼女の前では茶道具に触れることすら禁止されている節がある。
「アルヴィーに教えてもらって少しは上達した気がするんですけどね」
ダイが皿に載せて差し出した茶器を取り上げながら、マリアージュは肩をすくめた。
「あんたは化粧師なんだからいいわよお茶淹れてくれなくって。その辺りの子に言うわ。……そういえばアルヴィナ、ちゃんと来たのね」
「はい。お礼を言っていました。今日はミズウィーリ家に泊まってもらってよかったんですよね? 後で改めて挨拶に伺うそうです」
「わかったわ」
承諾に頷くマリアージュは、疲れきっている様子だった。ここが城でなければ、湯浴みをして眠ると叫んでいることだろう。
紅茶を啜って一息つく彼女を眺めていたダイはふと、祝辞を述べていないことに気がついた。
「……おめでとうございます」
「遅いわよ、言うのが」
にべもなく返すマリアージュに、ダイは慌てて頭を下げる。
「申し訳ありませんでした」
「本当よ。だから言ってるでしょ」
「マリアージュ様への敬意が足りない?」
「そうよ。ちゃんと次は女王陛下って呼びなさいよ」
ぐい、と空になった茶器を押し付けるマリアージュに、ダイは苦笑する。
「……それで、御用事は何ですか?」
お茶汲み係ならば足りているはずだ。見ての通り、女王として選出されたマリアージュには、世話役として女官たちが付けられる。
「これから司教と面会だそうよ。……化粧を直して、髪を結いなおして頂戴」
「かしこまりました」
ダイは茶器を盆の上に戻して、手近な円卓をマリアージュの傍へ引き寄せた。持ち込んでいた化粧鞄を開いて必要な道具を卓の上に取り揃え、手水用と思しき水差しと盥を運ぶ。
「では、失礼いたしまして」
粉除けを掛けて、前髪を留める。ダイはまず手を清め、乳液と綿布で彼女の化粧が崩れている部分を軽く拭った。
練粉を彼女の頬に塗布し、元々施していた化粧と馴染ませる。その上に白粉を被せた。くるくると、肌を磨くように柔らかい筆を動かしていく。
次に、青みある薔薇色を筆にとった。血色をよく見せるその色は、肌の白さを引き立たせる。頬の高い位置に丁寧に色を入れ、最後に余分な粉を払い落とした。口紅は何かを口にすれば落ちてしまうから、今しばらくは直さずともよいだろう。
「次は、髪を。少し身体を起こしていただけますか?」
ダイの言葉に応じて、マリアージュは無言で身体の位置を上へとずらした。
彼女の背後に回って飾りを引き抜き、結われていた髪をほぐす。毛の流れを手櫛で軽く整えたダイは、卓の上から薄荷油を引き寄せた。それを数滴、マリアージュの頭皮に入念に馴染ませて、ゆっくりと揉んでゆく。
「眠いわ」
マリアージュは、欠伸を零した。
「少し仮眠を取られていてもいいですよ。すぐ終わります」
「いいわよ。起きているわ。起きられなくなりそうだから」
頭を解し終わり、ダイはいくつかの紐を用意して、櫛を手に取った。
「司教って、聖女さまの聖堂の司教さまですよね」
「そうね」
「どういう髪型がいいんでしょうか? さっきの人たちに訊いたほうがいいでしょうか?」
「さぁ、適当でいいわよ。……そうね。あまりきつすぎない結い方で綺麗にまとまっているのがいいのかしらね。今日は朝から髪を固めてたから、頭が痛いの。これ以上は御免だわ」
「わかりました」
上部を編みこみにして、残りをふんわりと清楚に結い上げればよいだろう。
「ダイ」
「はい」
邪魔になる髪を留めていきながら、ダイはマリアージュの呼びかけに応じた。
「私は……本当に、女王として、選ばれたのね?」
懐疑的な、声だった。
髪を結う手を止めずに、ダイは頷く。
「はい。間違いなく、マリアージュ様が新しい女王です」
「実感が湧かないわ」
「あれ、そうなんですか?」
「そりゃぁそうでしょ。ルディア夫人の支持だって、まだ信じてなかった」
「信じてなかったのに、あれだけ私を引きずりまわしたんですか……」
げっそりとして、ダイは呻いた。
ルディアが支持を表明したことでマリアージュの女王選出が確定的になり、いずれ国を治めるかも知れぬのならば全てを見たいと、丸一日を掛けて街を回った。もう二度とあんな目には遭いたくないものである。
「……実感というか、やっぱりやっていけるのかしら、と思うわね。私を選ぶっていった人たちにも、頭おかしいの? って訊きたいぐらいだわ」
「そんな風に仰られなくても」
この後に及んで何を言い出すのかと、ダイは唖然とした。
「だってそうじゃない?」
上体を僅かに逸らし、マリアージュはダイを仰ぎ見る。
「私はやっぱり勉強嫌いだし、ヒースみたいに働き詰めもまっぴら。あんた他の子たちの演説聴いた? あの子たちみたいに、皆様が幸せでありますように、だなんて笑顔で祈れないわ。無理無理、虫唾か走る」
「……マリアージュ様」
「よく、みんなそんな私を女王に選んだりしたわよね」
「でも、あの演説は本当に素敵でした」
命令口調には笑ってしまったが、内容としては心震えるものがあったと思う。ヒースも、褒めていた。
皆もそうだったからこそ、彼女を新たなる女王として選んだのではないだろうか。
編みこんだ髪を余さずまとめて、ダイはマリアージュの背後を離れた。
「終わりましたよ、マリアージュ様」
「私ね、考えたのよ」
「何をですか?」
円卓の上から手鏡を取り上げながら、訊き返す。
「……何故、私が、女王になれたか。……いえ、何故、女王は私だと思うことが出来たのか」
マリアージュはその胡桃色の瞳をダイにひたりと向けて、白い手を差し出した。
「鏡を」
命に従ってダイは鏡を手渡す。磨かれた鏡面を、マリアージュはゆっくり覗き込んだ。
「演説する、あの時ね。女王になりたい、なんて私はこれっぽっちも思っていなかった。私は、こう思っていた」
――……女王は、私。
彼女の独白に、ダイは納得した。自分もあの時、確かに思ったのだ。
あれは支持を請う演説ではない。
絶対たる主君が臣に向けた宣下、そのものだと。
「今朝、あんたがしてくれた化粧を鏡で見たとき、女王がいると思ったわ。気高く、迷いない、国の高みに居る人」
そうありたいと望んだのはマリアージュ自身だ。だからダイは手を貸した。それだけに過ぎない。
「あんたの化粧は美しいと思う」
マリアージュは、淡々と言葉を続ける。
「芸術的であるとすら思うわ。ならばそれを、私が台無しにしてはいけないと思ったのよ。私は歌も上手くないし、踊りは、あんたも知ってるわね、壊滅的よ。裏街に住んでいる皆のように、細工物が作れるわけでもないわ。……だからこそ、台無しにすることだけはしたくなかった。私は、芸を尊び、技を磨く、国の一人なんだから」
目を細めて虚空を見つめるマリアージュがその脳裏に描くのは、見て回った街の様子か、城裏手の高台から見下ろした広大な景色か。それともマリアージュが女王となるきっかけを作り国を去った、アリシュエルの姿だろうか。
「鏡に映った顔は私が求める女王のもので、ならば私はそれに相応しくあろうと思った。だから、私は思った」
私が、女王だ。
マリアージュが、ゆっくりと立ち上がる。
手鏡をダイに返す、彼女の瞳は穏やかだ。自分を卑下する色も、悲嘆にくれる色もない。手負いの小動物のように些細な物事に気を荒立て、相手を威嚇していた娘の面影はそこにない。
「私が女王になったのはやっぱり当然、ヒースの根回しや、ルディア夫人たちのおかげよ。……だけど、私はこう思う」
ダイを見下ろし、マリアージュは静かに言った。
「あんたの化粧が、私を女王にした」
ダイは、呆然と主人を見つめ返した。
「あんた、いつも言うわよね。化粧は私が望むように、私を美しくするだけだって」
わたしにできることは、あなたがのぞむように、あなたをただ、うつくしくすること。
それだけだ。
けれど、とマリアージュは更に言葉を重ねる。
「私は思うのよ。私が女王らしくあるようにと望ませたのもまた、あんたの化粧だわ。あんたの化粧があればこそ、私は胸を張れる」
「マリアージュ様」
「わかるわね? ダイ、貴女が私を、女王にした」
マリアージュは微笑んだ。
「私はこれから、女王になる」
かつてないほどに、優しい微笑だった。
「あんたも、ちゃんと付いてくるのよ。……最後まで」
喉の奥に空気が詰まり、ダイは瞼を震わせる。
生まれたときからずっと、ダイは誰かの身代わりだった。
母は父、アスマや芸妓たちは母の姿をダイに見た。アスマたちはダイを個人として慈しむときも多くあった。それを疑うつもりはない。しかし彼女達の眼差しの根底にあるものは、ダイの母への愛と恐れだった。
ダイがあの花街から出たのは、ヒースが強く自分を望んだのだと、わかったからだ。
そして今、国の頂点に立とうとする人が、化粧師としての腕を認め、付いて来いとダイに言う。
他でもない、この人が。
自分を望む。
「はい」
ダイは微笑み、大きく頷いた。
「もちろんです。マリアージュ様」
「だから女王陛下ってちゃんと呼びなさいって言ってるでしょ」
いつもの叱責。しかしその声は笑っている。
マリアージュは馬鹿ねと言って、ダイの頭を遠慮なくかき回したのだった。