空白
長きに渡る奮闘ののち、三つ子たちを彼女たちの母親に引き渡したリリノは、怒鳴りすぎて痛むこめかみをぐりぐりほぐしながら館の縁側を歩いていた。放置された友人は待ちくたびれているに違いない。
「ごめん、ヤヨイ。お待たせしました!」
開きっぱなしの戸から部屋に入ったリリノは、柔らかなものを踏みつけて足を滑らせた。
危ういところで踏み留まったものの、悪態を吐かずにはいられない。
「もう! 何なのよ! ……あら?」
それは、花嫁の頭部を飾る金糸の斜だった。縁には祈りの文言の縫い取り。角には邪気払いの飾り鈴。リリノは悲鳴を押し殺した。どうしてこんなところに落ちているのだ。
踏みつけてしまってどこか傷んでいないか。蒼白になりながら紗の細部を確認し、何も問題がないことに、リリノは安堵のため息を吐いた。持ち主となる女を探して部屋を見回す。
「ヤヨイ……いないの? ヤヨイ?」
奥の続き間を覗いても、人影はない。手水にでもでかけたのだろうか。
リリノは紗を畳み、ヤヨイを待った。
近く花嫁となるべき女は、結局――……。