私を嘲笑うか(女王の化粧師)


 荘厳な鐘の音と極彩色の光線が、闇を切り裂く様を瞼越しに感じる。その光に導かれ、ディトラウトは瞼をあげた。開けた視界の中で、聖女が微笑んでいた。
 シンシア。救済の魔女。後々彼女は「紅の聖女」の位を賜り、魔の公国の長い歴史の中で、否、この大陸史の中で楔として打ち込まれた。
 民人は今も彼女がこの混沌の世に救いの手を差し伸べると信じている。あはれなるかな。あはれなるかな。神は何者にも救いを与えない。聖女も然り。
 そういえば、と、ディトラウトは思った。三年ほど身を偽って暮らした国は誰も安易に、救いを、と祈らなかった。ただ日々の糧となし得たことへの成果に感謝を述べるだけであった。それはかの国が安らかであったからか、聖女の国に頼ることなくその歴史を刻んできたゆえか。
 夜半、仕事の終わりに、丁寧に、道具たちを手入れし、聖女に、主神に、感謝を口ずさむ、少女の横顔を思いだし、ディトラウトはふたたび瞼を閉じる。――主よ、あなたはわたしをあざわらうか。


 この血塗られた身でたったひとりに焦がれるわたしを。