おかしな女(シアワセリスト)


 一つ言及しておくなら。
 亘理雛(わたり ひな)はおかしな娘だ。



 ぱちぱちぱち…ぱ
「あ」
 雛が小さな呻きを漏らした瞬間、瞬きを繰り返していた白熱灯はその輝きを失った。部屋は唐突に闇に沈み、部屋にあるものの輪郭すら、捉えることが出来なくなる。
 俺は舌打ちをした。要するに、電球が切れたのだ。予備のバルブがあっただろうか、と思案すること一秒。俺はため息をつかざるを得なかった。予備の電球は、確か先日洗面所の電球を交換した際使い切ってしまったはずだ。今度かっておかなければ、と思ったことを覚えている。
 まったくツイてない。八つ当たりであることは承知の上だが言わせてもらう。
 雛といるときはいっつもこうなんだ!
 たとえば今日。勉強の教えを乞いに、俺が一人暮らしをするアパートに一泊することを雛が唐突に宣言した。嫌がる俺の腰をがっちり掴む彼女をずるずる引きずって帰れば、快晴が前触れなく曇って雨が降り出すし。びしょぬれになって帰ってくればシャワーが壊れてつかえない。修理音は俺のせいじゃないのに、大家に苦情言われるし。
 偶然とは思えない。結論から言わせてもらえば、雛は俺の疫病神だ。
 ようやく目がなれて、雛の顔を確認でき…うわ!なんで間近にコイツの顔があるんだよ!
「ひひひ、ひな!お前何いきなりくっついてくるんだいい加減にしやがれコゥラ!」
「だって夏くん全然私の話きーてくれないんだもん~」
 聞いているほうがイライラするようなおっとりとした口調で、雛が反論する。小首を傾げる様はまさしく、鳥の雛の動作そのままだ。
「いいから離れろ!とりあえず外に電球かいに行かないと…」
「えーいいよしばらくこのままで居よう?楽しいもん」
「どこが!」
「キャンプみたいでしょ~外はガタガタぴゅーぴゅー。蝋燭か懐中電灯を真ん中において、一緒に並んでおしゃべりするのよ~」
 へへへ、とはにかむこの女、どうやら本当にこの状況を楽しんでいるらしい。いやこの女はいつもそうだ。雨が降り出せば一つしか傘がないためさしても濡れ鼠になることは確定なのに、相合傘だのほざいて楽しそうにしていたし、シャワーが壊れていると聞けば一緒に銭湯へいこう!などと提案して、新婚さんみたい~などとぬかし、大家に苦情を言われれば、叱られるっていうことは、相手にされているってことなんだから~と俺に対して説教する始末だ。
「いっそストーブも切って一緒のお布団に入ってキャンプごっこしよ~」
 のんびりおっとり言ってきた雛に、俺は迅速に、ありったけの拒否の意志を込めて、これでもかというほど冷ややかに即答した。
「いやだ!」