楽園より(神祇の楽園)



 《母》の前に立つとき、ルーシアは自分が石像になったのではと錯覚する。
 《母》は、ルーシアを愛さなかった。ルーシアへの扱いはほかの子どもたちへのそれとまったく違っていた。母はルーシアを常に疎ましげな眼で見た。どうして生みだしたのかと後悔するかのように。そうして時折、手を挙げた。己の鬱屈を晴らすかのように。そうして理解できぬ言葉で悪意を投げた。嗤い、怒り、叩き――ルーシアへの態度は常軌を逸していた。
 逸しているのだと、皆は言った。
 何故かはわからない。
 けれども、あなたは、愛されていないのだと。
(どうして、あいしてくれないの、おかあさま)
 楽園の外を眺めるルーシアに獣たちが身を寄せる。あたたかい彼らは自分と同じ。母を慰めるために造られたものだ。
 ルーシアは目を閉じた。母の前だけではない。呼吸が詰まる。石になる。冷たい冷たい石に。それだけは哀しかった。
 だから――……。



 はじまりはいつだったとおもう?
 わたしがらくえんからおちてから?
 あなたとであったときから?
 それとも――そのずっとずっと、まえからかしら。