似非抹茶(FAMILY PORTRAIT)


「あれ、抹茶ラテ?」
 テーブルの上に置かれていたガラスのコップの中に、見慣れぬ飲み物がある。乳白色がかったグリーンのそれは、どう見ても遊の好きな飲み物のうち一つ、抹茶ラテだった。
(音羽がわざわざ用意した? 私のために? そんな気遣うはずないしなぁ)
 うーんと唸ったが、まぁいいかと、それを手に取る。くんくんと匂いを嗅いでみたが、牛乳っぽい匂いがするだけだ。問題ないだろうと飲み干した瞬間、遊は喉を押さえて呻くはめになった。
「ま……まっず! なにこれ!?」
「何やってるんだお前は」
 呆れ顔で現れたのは、牛乳パックを手に現れた音羽である。咳き込みながら、遊は思わず叫ぶ。
「な、なんなのこれ!?」
「青汁」
「青汁!?」
「同僚に貰ったんだが、あんまりにも不味いんで、牛乳を混ぜてみた」
「混ぜないでよ!! 捨てようよ!!! てかこんなところに放置しないでよ!!!!」
「お前も放置してあるものを勝手に飲むな」
「私の好きなものにそっくりなのを放置してるほうが悪いよ!!」
「どういう理屈だ!」



「っていうことが、あったんだよ……」
 同僚の静と八重子に、前日あったことを訴えると、彼女らは揃ってそりゃあんたが悪いでしょ、と呻いた。
「でも私も青汁に牛乳混ぜて飲むよ?」
 突如そう告白してきた静に、遊は思わず身体を引いてみせる。脳裏に過ぎったのは昨日口にした牛乳ブレンド青汁のあまりの不味さだ。
「のんでみる?」 
 そういって静は銀色のスティックを一本取り出す。そこには「おいしいごくごく青汁」とやけに派手なショッキングピンクで印字されていた。
「いやいやいやいや全力でお断り!」
「あ、静ちゃん、今私丁度牛乳もってるよー」
「八重ちゃん!?」
「あぁ素敵八重子。今作るから、遊を捕獲しておいてね?」
「らじゃー」
「やめてぇええぇぇぇぇ!!!!」
 昼休み、ぎゃーぎゃーすったもんだの挙句、静かに口をヒヨコ口にさせられた遊は、喉の中に牛乳で溶いた青汁を流し込まれた。
 意外にも、ごく普通の抹茶ラテの味で、しばらく遊が青汁にはまったのはここだけの話である。