らしくない(FAMILY PORTRAIT)


 たとえ飲み会であろうとも、いつもなら電車で帰宅する音羽が、迎えを寄越せと連絡してきた。指定された場所は繁華街から離れたマンションの前。珍しいこともあるものだ、と、思いながら車を出す。マンションの提供するカーシェアリングのシステムは、こういったときに便利である。
 そうして迎えに行った先で、音羽はやけに落ち込んでいた。


 家に帰っても音羽はまだ無口だ。上着も放り出したままソファーの上でぐったりしている。さすがに心配にもなる。
「どしたの?」
「あ? あー……」
 遊はひとまず彼の上着をクローゼットに片づけると二人分のコーヒーをいれた。
「仕事でミスでもやらかした?」
「や、仕事じゃ、ないんだが……」
「仕事じゃないの?」
 音羽はそのまま沈黙してしまう。
「どうしたの? 話しなよ」
「いやだ。お前だけには話したくない」
「ナニソレ!」
 一度は会話を区切ったが、やけに鬱々としていることが気になって、強引に口を割らせると、何のことはない。
 どうやら部下の知り合いの女性を、彼の婚約者と勘違いしたとのことだった。


「おとわらしくなーい!」
「わかってる」
 コーヒーの入ったマグカップを握り締めながら、音羽は溜息をついた。
「けど絶対あれはそうだと思ったんだがな」
「でも違うんでしょ」
「違う」
「うわ成川君とその婚約者とお知り合いのひと三人に超失礼だったね!」
「わかってる! 満面の笑顔で言うな! お前のボケが移ったんだ!」
「ヒトのせいにしないでよ!?」


 酒が入っている二人の口論はしばらく続いたが、結局、最後は自らの失態が許せないらしい男を、遊はよしよしと慰めたのだった。