変化(女王の化粧師)


 ダイがこのミズウィーリに来てから何が変わったのかって言ったらいろいろだけど、リヴォート様に対するマリアージュ様の態度が柔らかくなったかな、とは思う。
 ダイが緩衝剤みたいになっているからかな。理不尽なことには、マリアージュ様が怒り出す前に、ダイがリヴォート様へ文句を言う。真顔で。さらっと。つい口がすべちゃった、みたいに。ダイってあぁいうとこ、馬鹿正直。
 それでダイとリヴォート様が口論? じゃなくて、お互いを説得しあうんだけど、その会話を眺めていたマリアージュ様が、ため息を吐いて、折れるの。癇癪が少なくなったからくりは、つまりそういうこと。
 マリアージュ様がわけもわからず怒鳴りちらさなくなると、ぐっとわたしたち、仕事がやりやすくなって。あと、リヴォート様も冷たい感じが少し消えて、話しかけやすくなったからかな。お屋敷の中のぴりぴりした感じが最近ないの。
「うん、ダイ、すごいね」
「すみませんティティ、会話の流れがさっぱりわからないです」
 いいのよ。私がそう思ったの。最近のダイの働きぶりは本当にすごいの。
 それからね。マリアージュ様が、落ち着いた声で、ダイや、リヴォート様のことを呼ぶようになったの。今までは、叩きつけるみたいな声だった。けれど今は、少し、低い声で、ゆったりと、ダイと、リヴォート様を、呼ぶ。
 「ダイ」って、ぞんざいで、でも、自分の身体の一部に呼びかけるみたいな、声で。ダイは大抵、化粧をしていたり、あと、マリアージュ様の衣装の裾を調整してたりしてて、涼しげな声で「はい」って確かに応じる。涼しげな顔は、ちょっとうっかりときめいちゃうぐらいに美少年なの。うん、ちょっとときめく……。
 「ヒース」って、マリアージュ様が、確かな信頼を込めた低い声で呼ぶようになったのは、いつからなんだろう。「はい」と、応じるリヴォート様はたいてい、夜会の予定をつらつら説明していて、ダイの仕事には口を挟まない。一瞥もくれない。でも、そんなこと必要ないって、わかりきっている感じで。冷淡に見えるほど整いきって、落ち着きを払った顔は、近寄りがたいっていうよりも、頼もしさを感じる。
 ダイが、マリアージュ様の外見を、リヴォート様が、その立ち振る舞いを。マリアージュ様は、二人の助言に耳を傾けて、すっと席からお立ちになって、二人の敷いた道を歩き始める。
 それを見たとき、わたし、不覚にも泣きそうになった。あぁ、マリアージュ様は女王になるわよ。だってこの二人が、間違いなく、二人で、マリアージュ様を後押ししていて、マリアージュ様は二人に、こんなにも信を預けているんだものって思ったら、ぎゅっと胸が苦しくて。
 多分、お屋敷の空気もみんなそんな感じなの。ダイが来て、いろいろあって、そう、一番変わったのは、きっとこの、一体感ともいえる空気なんだって思う。
 まぶしい光景。ダイとリヴォート様のお二人を従えて歩き出す、わたしのご主人さまの力強い姿を、わたしはきっと、ずっと忘れない。