二番目と三番目(神祇の楽園)


 アマーリエが子供を育てているのだとシオンから耳にして、アルヴィナは様子を見に行った。自分より早くに眠らぬ死者となった女は、突如訪れた自分を宿一階の酒場に誘った。部屋では、子供が眠っているからと。
「あの子、どこのこ?」
「さぁ。砂漠で拾ったんだ」
「いつまで面倒を見る気?」
「判らない」
「アマーリエ」
 アルヴィナの呼びかけに応じたアマーリエの目は暗かった。アルヴィナが変質したとき、アマーリエはすでに気が遠くなるときを一人で渡り歩いていた女だった。世界はゆっくりと時を刻んでいる。文明は前進していたものの、水の中を掻き分けて歩いているかのような感覚を、傍観者たるアルヴィナに抱かせる。緩慢な時。変化のない世界が、アマーリエの精神を蝕んでいたことは確かだった。
「私たちの傍に人を置いたりなんてしたら変質するわ」
「大丈夫。上手くやるさ。お前に魔封じを教えたのは私だよ、アルヴィナ」
「あの子が私たちを受け入れられない」
「そうだな。そのときには彼を人の中に帰してやろう」
 しかしアマーリエは、彼を手放さなかった。
 傍観者としての生を閉じるそのときまで。
 代わりに誕生した新たなる同胞は、またアマーリエと同じように世界の空白を求めて彷徨う。
 長らく共に苦しみを分かち合った同胞の選択がもたらした、一種の悲劇に、アルヴィナは今後一切、傍観者としての立場を貫くことに決めたのだ。
 その誓いが破られるのは。
 彼女がアマーリエが生きた時の何倍もの時間を隠遁して暮らした後、世界が劇的に終わりへと急ぎ始めたときのことである。