死のくちづけ(暁に燃ゆ)


 私と彼とが出会える場所は、ただ一箇所。拝殿と宮城を繋ぐ、冷たい廊下の一角だった。
 窓もなく、等間隔に設置された燭台だけが、唯一の光源。招力石で温められていることもなく、冷え冷えとして。私は毎日そこを通って拝殿へと先祖への祈りをささげに赴き、彼は同じくそこを通って仕事場へと向かった。
 私は女王。彼は取り立てられたばかりの一兵士だった。
 彼は新兵とは思えない雰囲気をまとって、私の目をひいた。黒髪に、葡萄酒色の瞳をした美しい人で、面差しは東大陸の人間のそれだった。
 私たちは出会い、言葉を交わし、惹かれ、口付けをその冷たい回廊の一角で行った。躰を重ねる余裕はなく、冷えた指先と唇を温めるだけの、短い逢瀬だけが繰り返された。
 私たちが結ばれたのはそう、彼が私を殺しに来た、その夜。
 たった一度だけ。
 その後、城は炎に包まれて、あの冷えた回廊には、焼け焦げた死体が折り重なっていた。私は彼に手を引かれ、その中を必死に逃げて逃げて。
 そうして。
 最後には。

 刃を受けた腹部は、燃えるようにあつかった。その熱を冷ますため、というわけではないのだろうが――閉じる瞼と唇に感じる接吻は、冷たく、丁度、あの回廊の石を私に思い起こさせた。