真名(女王の化粧師)


 城勤めを始める際に必要となるものは紹介状と調査票だ。前者は女王直々の推薦、ということで無用だったが、調査票を書くためにダイは身体検査を受けなけれればならなかった。性別は無論、身長や大まかな体重、目、髪、肌の色、それらは全て素の色かどうか、過去の病歴、云々を調べ上げられる。
 性別があきらかになっているということで、女の名前を隠す必要もない。契約書には、本名で署名した。
「ディアナがあんたの本名なのね」
 契約書を目にする機会があったらしく、城勤めを始めて一月経ったころに、マリアージュが言った。
「なんでダイって呼ばれてるんだい?」
「まー色々ありまして」
 ロディマスの問いにダイはお茶を濁した。過去話までするとなると面倒だ。
「じゃぁディアナって呼ぼうか?」
 アッセが訊いて来る。好きなほうで、と口にしようとしたのに、言葉が上手く口をついてでなかった。
「ダイでいいわよ。私がそう呼んでるんだから」
 マリアージュが肩に落ちている髪を鬱陶しいそうに払って言った。
「ダイはそれでいいの?」
「えぇ。みんな、ダイって呼びますから」
「じゃぁそうしよう」
 うん、と頷きあうテディウス兄弟に、ダイは安堵を覚えた。
 何故なのかは、わからない。


 ただ結果として、父がつけた真名を呼ぶのは、今もたった一人だけだ。