悲報の届いた日(SSC)


 夏も間近ながら日差し穏やかな日だった。


「きいたよ、ロゼアくん」
 シフィアがロゼアの肩をぽんと叩いた。何を? と瞬くと、彼女は口元に手を当てて、ふふふ、と笑った。
「リボンの話」
 ぎょっと目を剥いて思わずシフィアの口をふさぐ。どこから聞いたんですか。あれれわすれちゃったの? ロゼア君がリボンを作るの頼んだ子、私の同期だよ? あ、怒らないで上げてね。彼女がこっそり作ってたところに私が踏み込んじゃったんだ。
 そんなやりとりをひそひそと交わした最後に、シフィアが笑った。
「ソキさま、喜んでくださった?」
 ロゼアは、微笑んだ。
「はい」
 よかったね、と彼女は笑った。
「これから授業ですか?」
「ううん。ちょっと出かけてくる」
「外へ?」
「うん。……ロゼアくん内緒にしておいてね。ハルディの家に。久々にお茶しようって誘われてて」
「え? 珍しいですね」
「うん」
 ハルディはシフィアと同期の傍付きだった人間だ。花嫁を送り出した彼女はそのまま運営に移動し、以来、あまりこちらには顔を見せなくなっていた。
 ここのところ運営と世話役は対立することが多く、親しくしていると周囲から眉をひそめられることが多いのだ。互いに。
 ハルディとシフィアの仲が悪くないものだと知っていたロゼアは、素直に喜んだ。日頃、ソキの件で運営に腹を立てることはあっても、シフィアたちの友情はまた別の話だ。仲たがいしてほしいわけではない。
「楽しんできてください」
「ありがとう」
 シフィアは軽やかな足取りで出かけていき、ロゼアは手を振りながら見送った。
 一年遅れでシフィアのもとに届いた悲報が屋敷を震撼させたのは、その午後のことだった。