きれいな服(FAMILY PORTRAIT)


 朔に、ワンピースを貰った。
 あまり物をたくさん持つほうではない朔は、衣服を購入する都度、いらぬものを処分しているようだった。バーゲンでたくさん服を買って捨てるんだけど、と言った彼女に、捨てるなら貰ってもいいですかとお盆に帰ったときに訴えたのは遊だった。朔の選ぶ服はシンプルで綺麗めのラインのものが多い。柄物も愛らしかったり綺麗だったりと様々だが、派手でない、いつまでも着れそうなものばかりだった。元値が安かろうが高かろうが、『良いもの』、と一目でわかる生地のものを、朔はいつも選ぶ。そういう、センスのよいところはあこがれる。
 朔から譲られたワンピースは、裾がとても綺麗なマーメイドラインのフリルで、上のほうがV字カット。マネキンが来ていたならば、そのきわどさにノーサンキューな感じだが、実際着てみると胸周りの平坦さが綺麗に隠されてスタイルが良く見えるという驚きのデザインだった。朔が一度だけ着てみせたことのあるそのワンピースに、遊は一目ぼれしていた。綿百パーセントという手触りのよさもそうだし、着てみると温かく、かといって暑苦しくなく、季節の変わり目にぴったりだった。明るい青灰色の生地に、鮮やかな青や赤で花をかたどったシンプルな図柄が裾のほうに描かれている。その、えぐさと華やかさのぎりぎりのラインに挑戦したような、美しい模様が好きだった。
 着てみる。くるりと回ってみる。悪くはないけれど、少し背伸びをしすぎた感があるかもしれない。
 姿見を睨みながらむーと唸っていると、玄関のチャイムが鳴った。誰だろうと首をかしげていると、鍵が突然回った。驚いたが、同時に来訪者が誰なのか、理解できた。
「音羽」
「お前無用心だぞ鍵ぐらい閉めろ」
 男は現れるなり苦言を口にした。呆れた眼差しだった。
「あれ、鍵かかってなかった?」
「なかった」
「うっそぉ!」
「嘘ついてどうするっていうんだ」
 俺に何のメリットもないだろう。ぶつくさ呟く男は、面を上げ、少し眉をひそめた。
「……何?」
 男の視線に不快感を覚えて、遊は眉間に皺を刻む。
 男は言った。
「馬子にも」
「どうせ似合ってないよ」
「衣装、の意味、わかってるか。お前は」
 ちゃんとしてみえると言っているんだ、と、男は言う。一瞬、面映くなった遊だが、はた、と言葉の意味を思い出して、低く呻く。
「もとは駄目駄目っていう意味じゃないのさそれ!」