具材(神からの追撃者)



「……で?」
 リルド・フレイヤは腕を組み、目の前に並べられたおにぎりの列に冷ややかな視線を送って呻いた。
「これは何だ?」
「だからぁ! おにぎり!」
 明るい声で応じたのは前掛け姿の少女である。名を、レイリ・アッシュカ。記憶喪失でありながら、能天気を絵に描いたような少女、それが彼女だった。そして不幸なのだかどうだか知らないが、自分の恋人、ということになってしまっている。
「いや、それはわかるが。何でこんなに色とりどりなんだ?」
「色とりどりだけじゃありませんわ」
 ほほ、と笑ってリルドの問いに応じたのは、レイリの友人だという、教会の修道女だった。
「クリッシュ」
「中の具もとにかく色んなものをつめてみましたの」
 そういって、クリッシュ・アバトゥールは笑う。つくづく、胡散臭い修道女だと思う。
 だが、その胡散臭さも自分の傍らに立つ男には叶うまい。
 ジャイニー・クバールは、満面の笑みでうんうん頷いた。
「うんうん。だから食べてみるといいよ。うまくいけばおいしいのにあたる!」
「俺の前にお前がまず毒見しろ!」
 レイリの料理の腕は決して悪くはないが、この二人が絡むととたんに色々なものが破綻していくのだから始末に終えない。例えば、見かけとか、味とか。
「ふつうの握り飯を何故作らなかった!?」
 背後のレイリに、リルドは叫ぶ。
「だって!」
 レイリは前掛けを握って抗弁した。
「リーってば好きな食べ物教えてくれないんだもん! だからクーちゃんに相談したら、色んな種類のもの作ってみればいいって」
「普通の具材はいれたんだろうな!?」
「ちょっと辛かったり甘かったりするかもしれないけど」
「甘いって何を入れたんだ何を!?」
 この外見のみならず中身まで種類豊かだというおにぎりの列に、いろんな意味でリルドは唾を嚥下した。傍らと背後から、声援が飛ぶ。
「がんばってくださいませぇ!」
「がんばって! 愛のために!」
 リルドは叫んだ。
「だからお前らがまず先にくえぇえぇぇ!!!!」