あまやどり(千日紅の虚偽)



 野良猫みたいだったとハナちゃんは言って、私は全くその通りだと思った。男の部屋から逃げ出してきた私は、にわか雨に降られてずぶ濡れだったあげく行く場所がなくて。タンクトップにハーフパンツだなんて、ほとんど寝巻きみたいな格好でシャッターが軒並みしまった夜の商店街をうろうろしていた。ブラジャーだってつけてなくて、本当、通りがかったのがハナちゃんたちじゃなかったら、そりゃもうレイプされまくっていただろう。
 もし本当にそんな風になったなら、相手の鼻の先に噛み付いてやるけど。膝を抱えながらそういったら、サクちゃんは猫じゃないでしょう犬でしょう、とユキちゃんが言った。なるほど、野良犬だったかもしれない。けれど今の私にとってはどうでもいいことだ。野良猫で野良犬だった私は、今はユキちゃんハナちゃんというすばらしい飼い主を得ているのだから。
 もしにわか雨が降らなかったら、夜のお散歩に出ていた二人が雨宿りするために商店街のアーケードの中に入ってくることもなかったのだ。そうしたらわたしたちは出会わなかったし、私はどこぞでのたれ死んでいた。野良犬らしく。いや野良猫らしく?
 そろそろ眠るよ、とユキちゃんが言った。ぱちりと消される電気。私はユキちゃんとハナちゃんの布団の中にもぐりこんだ。恋人同士の二人の間に割り込む行為に、少し心が痛むと同時、私のことをちっとも煙たがらず、二人がかりで抱きしめてくれることに、泣きそうなぐらい嬉しくなる。
 この平和が、ずーっとずーっと続きますように。
 洗濯物をぐずぐずにしちゃうにわか雨みたいに、突然の不幸が降ってきたりしませんように。
 私は祈りながら、眠りにつく。