ふたりの関係についての一考察
「かなえのばーか」
「みちるのあほ」
「自意識過剰男」
「ネクラ女」
佐々木奈々子はみちるの作った昼食をもそもそと食しながら、痴話喧嘩としかいえない口論を聞いていた。妹尾叶と散里みちるの二人の口論を聞くことは日常茶飯事で、抱く感想も毎回同じだった。
なんと、低レベルな。
(アホらし)
昼休み。屋上、もしくはそこにある天文部の部室で、みちるの作った弁当をこの三人の面子で食べることが自分たちの日課だ。どうして三人で昼食をとるようになったのか。その経緯は複雑怪奇で、奈々子一人では解説しきれない。
しかしことの始まりは、人懐っこく明るい全校生徒の人気者といっても過言ではない叶が、実は酷く狭量で、わがままで、表裏が激しく、甘えたな上に独占欲まで強い――頭も恐ろしく切れる――手に負えない男だと、奈々子が知ってしまったからであったような気がする。
誰に対しても仮面を外さない叶が、みちる相手のときだけ本性を表し、軽口を叩きあう。そのことを知った自分は、みちるに興味を持ち、彼女の優しさに触れて、彼女を友人と思うようになった。その関係で叶もあきらめて奈々子には本性を現すようになり……。
奈々子と叶が日々昼食を購買ですまさなければならないということもあって、いつの間にか面倒見のよいみちるが、材料費を徴収してとはいえ、三人分の弁当を作ってくるようになった。
それ以来、毎日こうやって重箱を三人で囲み。
そしてみちると叶は、痴話喧嘩を繰り返しているわけで。
(本気、よく、飽きないな。感心してしまうね)
馬鹿アホドジ間抜け。
本当に、小学生でも今時しないような低レベルな口論だ。それを延々、状況を察するに、おそらく年単位で続いているものなのだろう。呆れると通り越して、奈々子は感心してしまう。
(熟年夫婦の会話みたいだ)
奈々子はかぼちゃの煮つけに手をつけながら思った。そう、熟年夫婦のようだ。これだけ口論を繰り返して、嫌いだと言い合って。
それでも結局、こうやって共に食事を取っている。
馬鹿だとか嫌いだとか最低だとか。
そういう言葉の一つひとつは、きっと愛情表現みたいなものなのだろう。
でなければ、三百六十五日、何年も続けてなどいられるものか。
そしてそれに一年は付き合っている自分も、かなりの物好きで、二人が気に入っているということを否めない。
ひとまず、最後に残っているからあげは、食べてしまっていいのだろうか。
二人の会話に割ってはいることを躊躇っているうちに、今日も昼休みは緩やかに過ぎていった。