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間章 縋るな、弱き者よ 4


 集合住宅の玄関広間を拠点に、空いた時間で化粧を始め、五日目のことだった。
 集合住宅に入ってきた娘が、今日の分の後片付けに入っていたダイを見るなり、盛大に叫んだ。
「あぁっ! ダイだ!」
「はい!?」
 見慣れない顔の娘に指さされ、ダイは素っ頓狂な声を上げた。一方の娘は困惑するユベールたちに構わずつかつか歩みより、そかそか、君だったか、と、なんだか納得顔だ。
 ダイは椅子に座ったまま娘を凝視し、あぁ、と、瞬いた。
「えぇっと、昔、村でご一緒した、一座の」
「そうそう! やだー、こんなところで会うなんて奇遇だね!」
 と、最後に見たときより幾分か大人びた顔をして、彼女は笑った。
 クラン・ハイヴを初めて訪れたときの話だ。
 ダイはマリアージュとアルヴィナの三人でルグロワ河に落ち、流れ着いた先の農村に滞在したことがある。そこで大道芸の一座を手伝った。娘はその一座で、確か、聖女役を務めていた少女だった。
「ララさん、でしたよね。お久しぶりです」
「いや本当にね。元気だった?」
「はい。ララさんはおひとりですか?」
「ううん。一座の皆もいるよ。あたしは外から来た人にね、お化粧をしてくれる上に、何かをくれるおっかねもちーがいるって聞いて、見に来たんだ」
「おかねもち……いえ、ちょっと違うんですけれど」
 初回は確かにダイの手持ちの招力石でお礼を捻出したが、二回目からは市からの支援を受けている。礼の品は招力石の屑ではなく、ルグロワ市が準備した替えの服や靴、鞄などの必需品に替わっていた。ダイもほかの仕事があって常駐はできないので先着順である。そのため、「ダイの手伝い」の依頼を受けたいなら、市が打ち出した賄い食の調理や住居の清掃やらの仕事を近隣でこなしつつ、ダイの出を待つという何だか訳の分からないことになっていた。
「お化粧をする人はダイなんだ。そか。納得」
「ララさんたちは、いつルグロワに?」
「うーん、そこそこ前からかな。聖女様が新しくお出でになるんだって聞いて、それならお祭りになるじゃんって、稼ぎどきじゃんって思ってね」
 この世相で大道芸は村に寄っても厄介払いされるだけ。それならまだ稼げる見込みのある大きな街に身を寄せようと皆で決め、最寄りだったルグロワに身を寄せていたらしい。もちろん、市内には入れず、外の天幕で流民と共に生活していたようだが。
「よく……ご無事でしたね」
「んー……。うん。ありがと。ダイもね。……マリアお嬢さんたちは?」
「ここには来ていないんです。でも、大丈夫ですよ」
 そっか、と、ララは安心した顔で笑った。
「よかった」
「あ、セイスさんはここにいます」
「え、セイスのにーさん、いんの!?」
 玄関広間に文官と連れ立って入って来た、話題の男に目を留めて、ダイはララの背後を指示した。
 ダイと目が合ったセイスが足を速めて距離を詰める。
 彼は自身を見て笑顔を花咲かせるララに眉をひそめた。
「だれ?」
「うわ……にーさん冷たい」
「セイスさん、ララさんです。エスメル領の村でご一緒した一座の。……聖女役していた」
「……あぁ!」
 ようやく記憶が繋がったらしい。セイスが瞬いた。
「元気そうだね」
「おにーさんもね。ルゥナちゃんはここにいるの?」
「いない。でも元気」
「マリアお嬢さんたちと一緒か。でもよかった。生きてるならね。……あ、そーだ。ねぇねぇ、明日の昼さぁ、広場に来てよ。あたしら、劇させてもらえるんだぁ」
 集合住宅の近くに石畳を青く塗った小さな広場がある。いまは家族を失った人々の寄り合いの場になっているらしいが、座長が役人から劇をする許可を取り付けたらしい。
「何の劇をするんですか?」
「んー、聖女様の……って言いたいところなんだけど、それはなんか駄目っていわれてて。だからねぇ、聖女の騎士団にいた人たちの名前とか使ってね、新しいお話を作ったの。……戦いばっかりしてた、つよーい魔術師さまのその後、みたいな恋の喜劇! 平和になったから、故郷を立て直したくてね、一緒に帰ってくれないかって、片思いの仲間だったひとに言うの。そこから……ンフフフ、見てのお楽しみよ!」
「面白そうですね」
「でしょー。見に来て! セイスのにーさんもね!」
 セイスがララからぎゅっと手を握られ、ぶんぶんと上下に振られる。彼は救いを求める目を向けてきたが、ダイは無視した。
 ララがふっと目を陰らせる。
「光の柱がさ、まん丸お月様の夜にぴかーってなってさ。周りの人がいっぱい、ばーって消えて。あたしらももう、ダメだって思ったよね……」
 彼女はセイスとダイから一歩退くと、その背後で働く人々を目を細めて見た。
「しばらくさぁ、なんか、動けなくて。皆で固まってじっとしてたの。……だけど、何日か前からさ、知ってる人がさ、髪の毛きれいに結んで、服をちゃんと着て、まわりでうろうろし始めたんだよね……。おかしいなって思って。あんたらもあたしと同じで、もう全部ダメだって言ってたじゃん、みたいな」
 ダイが化粧を始めた直後の話をララはしている。
 彼女は、ははっと笑った。
「それで、あたしも顔を洗ったら、なんかしゃきっとして。で、仕舞ってた一等の舞台衣装、着たのね。ほら、死ぬなら汚れたっていいもん。そしたらさぁ、明日も、このきれいな服、着てたいなぁ、みたいな気分になって、で、変なんだけど、お腹すいてきてさぁ」
 そしたら、麺麭がいるじゃん。でも、動かないともらえないじゃん。いっぱい食べたいなら、手伝えばいいって、言われて。ちょうど、お役人さんが日雇いの小さな仕事をいっぱい持ってきてくれてさ。やるかーってなって、で、そこで、お化粧してくれる人の話きいて、やるなーってなったわけよ。
 べらべらべらと話していたララがダイに微笑む。
「一回、キレイにしたら、明日もキレイでいたいよねぇ。お化粧、そんなことができるんだなぁって思ってたら、じゃああたしらには何ができるんだろうって、劇しかないんだけど。こんな時、劇って要らないって言われるかもだけど、でも」
 無気力で、何もできない人々も、広場に座れば観客だ。歓迎歓迎。ただじっと座って、一座の物語を眺めてくれれば大変よろしい。
「お先真っ暗で見えなくなった、こう、幸せな未来っての、見せてあげられるよね」
「……そうですね」
 ダイはララに微笑み返した。
「そういえばその恰好、ダイたちって、お役人なの?」
「ん。んー、まぁ、そうですね」
「そっか。あのさー、もし知り合いだったら、あたしらを中に入れてくれたお役人さんとか、あと、毛布とか麺麭とかくれたお役人さんに、お礼言っておいてくれない?」
「かまいませんが、どうして?」
「だって、あたしがいましゃきっと動いてやるぞって気になれているの、お役人さんたちがあたしらに時間をくれたからじゃん」
 じゃなきゃ、野たれ死んでるでしょ、と、ララはあっけらかんと言った。
 面はゆい顔で固まるイネカや困った顔のジュノを思い浮かべて、ダイは頷いた。
「伝えておきます」
「市長さんもさぁ。街をこーんなにしっかり守って立派立派。他の街、もちょっとしょぼかったよ。……セイスのにーさんも、ルゥナにお礼を言っておいてね」
「……何の?」
 急に話を振られたセイスが訝し気にララを見返す。
 ララは笑って説明した。
「ほら、覚えてる? 村が賊に襲われてさぁ、あたしも怪我して。皆でずーんってなってたときに、ルゥナが、劇だ! って言って、劇したじゃない」
 確かにそのようなことがあった。
 そしてその劇を通じて、《上塗り》の副作用と、《魔封じ》、アルヴィナの呪いを知ったのだ。
「その時のことがあったから、今度もあたしらに何ができるってなったとき、劇だ! ってなったわけよ。だから、ありがとって言っておいて。ルゥナがあのとき、劇をとても好きでいてくれたからだよって」
 じゃあね、と、彼女は手を振って踵を返す。
 言いたいことだけ言って消えた背中をセイスは呆然と眺めていた。
 ララを見送ったダイは片付けを再開した。
 玄関広間はいまだなぜか身体を清めにきたり、その手伝いを仕事にし始めた男女が忙しなく往来しており、沸かされた湯の蒸気が空間を温めていた。髭を剃った住人が、近隣から連れてきたらしい虚ろな目の男の手を引いていたり、こざっぱりとした服の女が、洗いたての子どもの頭を梳っていたりなどする。
 その生活音や彼らが交わす明日についての囁きを背景音に、道具の片づけを進めていると、住宅内を見回る仕事を終えたらしいセイスが、またふらりとダイの下へやってきた。
「――ルゥナは……劇が好きで」
 前置きなく、彼は言った。
「女王になる前。会ったばかりのころだ。祭りの時期に村に来る一座が、いつも賑やかで楽しいんだって。でも、村を焼かれて……こんなものは、何も、人を救わないって」
 ――フォルトゥーナは、化粧師のダイが《国章持ち》であることに否定的だった。
 彼女は何を見て、その意見に至ったのか。
「違ったね」
 卓の一角に腰を預けて、どこか遠くを眺めて、彼は述べる。
「ただ生きていればいいというのは乱暴だ。好きな服を着て、身ぎれいにして、夢物語を食べて、誰かを求めて求められて、僕らは知る。立って歩ける人なんだってことを。僕が、ルゥナに会って初めて、道具じゃなくなったみたいに」
 セイスがふっとダイを見る。
 彼は微かに、笑っているようだった。
「君に国章を預けた女王は間違ってない。僕はそう思う。ルゥナには怒られるかもしれないけれどね」


「――ダイってさ、あちこちに知り合いがいるよな」
 市庁舎に戻ると、ダイにランディが指摘する。
 ダイは首を捻った。
「え、そうですかね?」
「そうですね」
 ランディにブレンダが同意する。
「わたしはダイに長く付いているわけではありませんから、人脈の広さに余計に驚かされます。こちらでも、いつの間にか誰かと顔をつないでいらっしゃいますし……」
「騎士とか文官とかって、所属が別同士で仲良くしないもんなんだけど。ダイは他の国の人らとも普通に仲いいし」
「垣根がないからですかね」
 と、今度はユベールが口を挟んだ。
「騎士は所属先の結束が優先されますし、文官も部署を強く意識するものですが、ダイはその……女官とも違いますし」
「まぁ、化粧師ですしねぇ……」
 単独の職人なので、結束も何もない。ダイには細工ものの職人たちが加工技術の流出を気にするような、守秘義務的なものもなかった。弟子、と、いうと、妙だが、自身の下につく女官には化粧の仕方を常に伝えている。何なら貴族の子女や、彼女たちに仕える侍女にさえ、ダイの手法は垂れ流しだ。
 繰り返すが、ダイは代わりの利く身分である。それゆえに侮られているからこそ、各所から拒まれないという点もあるかもしれないし、弱者として関わる人間と仲良くなっておくことが生き残る秘訣ではある。
「化粧しかできないので、とにかくあちこちに頭を下げて手伝ってもらえるように、お願いすることしかできないというか……」
「できるのは化粧だけって、ダイは言うんだけどさぁ。でも、その職分が、幅広いっていうかさ。自分の領域を、きっちり、仕事をしてるから」
「……どうしました、ランディ。いやに褒めてきますね。何か後ろ暗いことやらかしました?」
「違うって!」
 と、力強く否定されたが、妙に怪しい。
 何か心当たりあるのか、ユベールも神妙な顔つきだ。
 ブレンダが同僚に呼ばれて部屋の戸口へ行き、ヤヨイも茶の支度に一度その場を辞す。
「――あの、さ」
 ダイが使用した道具類の点検に化粧鞄を開けていると、壁際に控えていたランディが躊躇い勝ちに口を開いた。
 やはり、何か言いたいことでもあるのか。
 ダイは軽く身構えてランディの言葉の続きを待った。が、彼は視線を彷徨わてばかりだ。続く言葉を見つけかねているようだった。
 ランディの隣に立っていたユベールがため息を吐いてダイに請う。
「ダイ、少しだけ、お傍に寄ってもよろしいでしょうか?」
「……どうぞ?」
 ダイの許可を待って、ユベールはランディの脇を肘で小突いた。
 ダイの身体が警戒しないぎりぎりの範囲を見極めて、距離を詰めたふたりが剣を傍らに置き、その場に跪いて項垂れる。
 ――正式な作法に則った、上位者への拝謁。
 突然、どうした。
「あ、あの?」
「――あなたに、謝りたいことがあります」
 常とは改まった言葉遣いで、ランディが告げる。
「何を?」
「あなたを、タルターザで、お守りできなかったことを」
 不意のことにダイは瞬いた。混乱して、彼の言葉を否定する。
「いえ、謝られることでは……っていうか、そもそもふたりとも、あのとき、わたしとタルターザにいませんでしたし」
 タルターザの乱にダイたちが巻き込まれる少し前、ダイはランディたちと切り離されていた。ダイにペルフィリア内通の疑いをテディウス兄弟が抱いて、ダイをより警戒できるほかの騎士と、ランディたちの配置を入れ替えたのだ。
「確かに、あなたのおっしゃる通りです」
 ですが、と、ユベールがダイに抗弁する。
「配置換えを命じられたとき、わたしたちは不審に思っても、抵抗はしませんでした。化粧師ながら《国章持ち》という、難しい立場の存在を、あの頃のわたしたちは少し、持て余していた、と、申し上げてもいいかもしれません。……陛下が玉座に相応しくないと軟禁されたあと、わたしたちは初めてあなたたちのことを振り返り、そしてあまりにもわたしたちは、不誠実だったのでは、と、悟りました」
「ふせいじつ」
「騎士である、という職分に対して」
「自分たちはダイを守る騎士だった。ダイはずっと仕事に尽くして、国を守ろうとする陛下を支えていたんだから、それを見ていたのは、俺たちだったんだから――守るものを取り上げられたら、怒るべきだったんだ。なのに、俺たちは、自分たちがうまくダイを守れてない自分を、見たくなくて、その仕事を放り投げてしまった」
「ランディ、タルターザでわたしが死にかけたのは、わたしが勝手に無茶をしたからで」
「でも、ユマが死んだだろ」
 ランディの指摘にダイは喉の奥を詰まらせた。
 ユベールが静かに告げる。
「ユマはわたしたちに怒っていました。わたしたちがそうやってダイの味方につかないから、ダイはいつまでも自分を軽んじるんだと。……自分はあなたから離れないと。……結果、彼女は身を挺してあなたを守り切りました。彼女の方が、我々よりよほど、騎士だった」
 不思議に思っていた。
 ダイに親しい人々は、主人たるマリアージュと、彼女の守りとしても重要なアルヴィナを除くと、ほぼ、離されていたのに、ユマだけは共にいたから。
 ランディがダイを真っ直ぐに見上げて、震える声で告げる。
「ごめんな、ダイ。お前と、ユマを、守ってやれなくて」
「いまさら、と、あなたにとっては迷惑なことかもしれません。けれど、どうか謝罪させてください」
 ダイにとって赦すも何もないことだった。
 が、けじめとして、ふたりには必要な告解だったのだろう。
「わたしからも謝らせてください」
 再び顔を伏せた彼らにダイは言った。
「あの頃のわたしは、守られる側の振舞いというものを、わかっていませんでした。たくさん、迷惑をかけたと思います。そして、ありがとうございます。わたしがお傍にいられなかったときのマリアージュ様を守ってくださって。――このルグロワまで、わたしに付いてきてくださって」
 ダイはふたりの前に片膝を突いた。彼らの手をとって、震えないように気を付けながら、ゆっくり握りしめる。
「また、守っていただいてもいいでしょうか。……これから、わたしが行く先でも」
「もちろん」
「御誓い申し上げます」
 ダイは微笑み、彼らの手を引いて立ち上がらせた。
 手を放したダイにランディがふと気づいた顔で首をかしげる。
「ダイ、これから行く先って……帰国する前にどこかに寄るのか?」
「するどいですね」
 ダイは彼に笑って、実は、と、口を開きかける。
「お話中、失礼します」
 と、ブレンダが急いた顔で戻ってきた。
「あの、ダイ。市庁舎の方から遣いが参りました。急ぎこちらへ来て欲しいと。何でも……ペルフィリアから、難民の方々が、到着したとのことで」
 ――あぁ。
(来た)
 と、ダイは思った。
 すぐに行く、と、ブレンダに答え、移動の支度に動く人々のただ中で瞑目する。
 ダイはずっと待っていた。
 動くべき時期を。
 世界からの合図を。


 ルグロワへ出立する前。
 あの青い花の咲く丘でのこと。
「とりあえず、アスマを中心にして、城下の主だった工房主たちと連携する体制は整えました。城内の窓口はアルマです。商会はブルーノさんから話を通してもらっています。他の領地の話も、リノを通じて入ってきますから。それからあと……って、マリアージュ様、話きいてます?」
「聞いてるわよ。っていうかソレ、城でも聞いたわよ。二度ぐらい」
「繰り返したほうが記憶に定着しやすいかと」
「もう、いい気分で風に当たってるんだから、やめて頂戴そういう話。お腹いっぱいよ」
 げんなりとした顔でマリアージュが呻く。仕方がないか、と、ダイは口を噤んで、あてどなく花園の中を歩く彼女に付き従った。
 しばらくしてマリアージュが不意に立ち止まる。
「――わたしからも、もう一度、命令を伝えておこうかしらね」
 ダイに向き直ってマリアージュが告げた。
「ダイ、城でも言ったわね。ふたつ、命令を下します」
「はい」
「ひとつ、レイナか、他のだれかが聖女となった場合、新しい聖女や教会と交渉して、ペルフィリアへの侵攻を直ちに取りやめさせ、かの国に正しい国主をもたらせる、可能性を探ること」
 ルグロワ市への使節は新しい権力者が生まれることを止めること。だがもうひとつ、ダイは密命を負っていた。
 新しい聖女を自分たちに有益な権力者として誘導し、隣国の混乱を押さえる目はないか模索するのだ。
 そして。
「ふたつ、ルグロワ市で仕事を終え次第、あんたは使節から任意の人員を割いて、そのままペルフィリアへ向かい、かの国の女王および宰相に、大陸会議からの正式な特使として、国主詐称の容疑が掛かっていることを通達。……わたしたちの召喚に応じるよう、説得すること」
 これはイェルニ兄弟を密かにペルフィリア国外へ『護送』することも含む。
 この下準備として、マリアージュはすでにダダンを彼らの下へ向かわせた。
「かしこまりました」
「ダイ」
「はい、陛下」
「……そろそろね。わたし、あの男をぶん殴りたいの」
 ダイの主人は笑って言った。
「ぜーんぜん、外に出る様子がないあの馬鹿、あんたが代わりに引っ叩いて連れてきて」


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