秋風(HOST FAMILY !!)


 縁側に腰掛けて、風を感じる。残暑をさらっていく、心地よい風。鈴虫が鳴き、さわさわと、庭に植えられたコスモスが薄暗がりの中、揺れている。
「ちょっとは手伝ってよ」
 背後からかかった声に、皮肉の声を返す。
「この家の家事はお前の役目だろうが」
「そりゃそうですけれど」
 片方の眉を苛立ちに吊り上げて、彼女は唇を尖らせた。
「でも隻兄も叶君も手伝ってくれるのにさぁ」
「悪かったな、俺だけ手伝わなくて」
「判ってるなら、手伝って」
 せめて片付けぐらい、と、彼女は呻いた。
 その手が提げ持つ盆には、湯気を立てる緑茶とみたらし団子。
 彼女は盆を置いて隣に腰掛けた。
 そして僅かに目を細めながら、彼女は笑った。
「あぁ、風、きもちいいね」
 ぷらぷらと足を揺らしながら、心地よさそうに風受ける彼女は猫のようだ。
 毎年、同じことを言っているなと思いながら、同意する。
「そうだな」
「ねぇ、お団子食べようよ。今年のは改心の出来だよ」
「みたらしか」
「不満そうね」
「普通の白玉がいい」
「なら食うな」
 言い捨てて、彼女はみたらし団子を爪楊枝で突き刺し口に放り込んだ。少し膨れ面で、むぐむぐと団子を咀嚼する女を見るのは飽きないが、一つぐらい食べてやらないとまた喧嘩になりそうだ。大体、こちらが甘い類を好まないことを知っているのだから、普通の白玉にしてくれておいてもよさそうなものなのに、日頃の厭味に対するあてつけか。
 嘆息して、彼女がしたように爪楊枝で団子を突き刺し、口へと運ぶ。舌に残る独特の甘さを覚悟していたが、思ったよりもさっぱりとしていた。
「あぁ、うまい」
 思わず漏れた感想に、彼女は得意げに笑う。
「でしょ?」
 改心の出来だもん。
 そういって笑う彼女の髪が、秋風を受けて月の光の下で踊った。