間違い訂正(FAMILY PORTRAIT)


 遊が仕事から帰り着くと、音羽はやけに上機嫌だった。


「……なんかいいことあったの?」
 晩酌していた男の手元から酒の肴を失敬しながら遊は尋ねた。
「勘違いじゃなかった、と思ってだな」
「……何の勘違い?」
「ほら、成川のことだ」
 半年ほど前だったか、音羽が部下の婚約者を間違えてしまったことがある。
 そのときはたいそう落ち込んでいたものだ。
 ところがである。部下の青年は婚約者と別れ、なんとつい先日から、音羽が勘違いしたほうの女性と付き合い始めたのだという。
「おぉおおぉ? なになんかドラマティックなかほり? もうちょっと詳しく聞いてきてよ」
「でばがめ根性をだすな」
「冗談だよ。で、自分の勘が狂ってなかったことが証明されてうれしいんだ?」
「あぁ。それもあるが、なんだか大変そうだったから、落ち着いてよかったなと思って」
 一年ほど前から下についた青年のことを、音羽はことのほか気に入っているらしい。音羽は懐に入れた人間に対しては、気の遣いすぎではないかと心配になるほど大事にする男だから、今回のこともかなり案じていたのだろう。
「はぁそれにしてもよかった。お前のボケが移ったのかと本気で思った」
「ちょっとそれどういうこと!? チーズ奪うよ!?」
「もう勝手に食べてるだろうが!」


 結局、二人でそのまま、音羽の部下の幸いを願って乾杯した。
 当人は今頃くしゃみをしていることだろう。