独占欲の肯定(女王の化粧師)


 ヒースがわたしを避け始めてどれぐらいたったのかわからない。彼の冷えたまなざしに射られるその都度、胸の奥を満たしていたかなしみは、いつのまにか凝って、凍て付き、冬の森に折り重なる葉のように、わたしの心は霜に焼かれて黒ずみはじめていた。
 お屋敷で働く人々を、彼がやさしくねぎらう。そのいたわりに満ちた横顔を垣間見、やわらかな声音を耳にするたびに、霜はますます広がった。わたしの胸に巣食う少女がそっとわたしにみみうちする。ひどいよね。笑顔も声も――わたしのものなのに。
 汗みずくで夜半に目覚め、わたしは誰の声を聴いたのだろうと自問する。そのころのわたしはまだ少女を知覚していなかった。わたしのこころの霜の向こうでまどろむおんなのわたし。
 あるとき、主人のことでヒースといさかいになった。わたしは自らの主張を退けず、彼は苛立たしげにわたしを見る。それもまた、他の使用人たちには決して見せない、いまいましさとほんの一部のかなしみにまみれた、わたしを煙たがるまなざし。
 それでもいいよ、とわたしは嗤いたくなる。やさしい笑顔の代わりに。あまやかな声の代わりに。いらだちすべてをこめたその昏い目を、わたしひとりだけに向けるのなら。