すごろく(カミサマ!)


「先生は運がいいと思うんですよ、ハゲですし」
「どこがだ! ハゲのどこが運がいいんだ!?」
 俺はサイコロをばしーんと投げ付けながら、少女に訴えた。せんせーおとなげなーいとかって生徒たちに笑われる。てかなんでマイスイートホームなアパートが正月早々生徒たちで占拠されてんの? 俺、家族の早く結婚しろ攻撃から逃れるために年始の挨拶さくさく切り上げて帰ってきたのにもー!
「ううう年末に頑張って片づけたのに……けがされる」
「やだぁ、せんせい、女子高生に囲まれてなんでそんなに泣いちゃってるの? うれし泣き?」
「ばかー! 俺はPTAに目を付けられたくないんだー! 女子高生に囲まれてうはうはになるのは俺が高校生だったときだー! そんな経験なかったけどな! ちくしょー!」
 俺の叫びに生徒たちがけたけた笑ってる。あぁ、これがモテ期というのだろうか。でも自分の生徒に持てるのはイヤですだって俺独身なんだものー! 変な噂立てられたら死ぬの俺です正月から女子高生に押し掛けられるなんてヤダ死亡フラグですロリコンと勘違いされちゃいます。いや、女子高生はかわいいけど先生は自分の生活大事なんだぞ。ビバ平穏ライフ。
「てかなんでお前ら俺のアパート知ってんの……?」
「それはもちろん私黒瀬真理子が先生の頭をことこまかく見守っているからです」
「お前かー! お前なのか黒マ!!」
「略さないでくださいっ!? それから先生二マス下がるですから!?」
「うおおおぉおおぉ二マス下がったら二センチ剥げるってどういう作りなのこのすごろく!」
「私が先生の為に特注してみましたっ!」
 すごろくの端に目指せ河童の王とか描いてあるし! やたらカラフルで手が込んでるし! そんなに俺を剥げさせたいの黒瀬真理子……。



「いまどきすごろくないないって思ってたけどさー」
 教師から白マと呼ばれる女学生は、真面目にサイコロを振って駒を進める。
「やってみると結構新鮮だよね。あ、川の主になってもう一度サイコロを振れるだって。やーりーぃ」
「まーねー。普段こんなんやんないもんねー。まぁアタシもなんですごろく? って思ったけど」
 白マの進み具合を見て、あれ、と赤マは目を瞠る。
「すごいじゃん。もうすぐゴール?」
「へっへー。もしかして一番?」
「すごろくってねぇ。昔の人はこれで運試ししたんだってぇ。……いち、に、さん、マスっと」
「へー。じゃぁアタシが一番だったらアタシ今年超ラッキーってこと? ……あれ? 五マス下がる?」
「あははは簡単にはいかないねー!」
「くっそ」
「それにしてもよく知ってんねーすごろくが運試しなんて」
「真理子に教えてもらったの。真理子はこれで占いたかったらしいよー」
「何を?」
「河童と一緒になれるか」
「あぁ、河童と……」
 少女たちは教師と彼にすがる少女を見る。ハゲ好きという少々変わり者の娘を。



「わかった! じゃぁ俺が一番になったら黒マは愉快な仲間たちを連れて帰るんだぞ!」
「えーえー」
「先生ひどいー」
「何その愉快な仲間たちって呼び方。ダッサ」
「うわーもーなんで正月早々俺こんな非難されてんの!」
 しかも年下で生徒に。詰られる趣味は俺にはないんよ! それからそこ! 俺を河童ゆうんじゃない! ハゲてないし薄いだけですし! 多分!
「とにかく俺は決めたから! 俺一等賞になったら帰れよ!」
「じゃぁ一番にゴールした子の言うことをきくんですねー先生」
『わたしたち真理子に協力しまーす』
 ……あれ? なんか俺、自分で自分の首を絞めた系?
 いやまてまて。とにかくこのすごろくに勝てばいいだけだ。ここ一番の勝負どころで俺は強い! 俺は強い! そう思いたい! 実際は弱い!
 俺は祈りの形にした手の中でサイコロをころころ転がしながら祈った。
 あぁ、とりあえずどんな形でもいいから。
 俺が勝てる目を出してちょうだいよ。
 カミサマ!