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ボーイズ・トーク


「……あ、もしもし? 俺だけど」
「……めずらしいな。どうしたんだ?」
「今大丈夫?」
「あぁ」
「あのさー、一昨日ぐらいなんだけど、叶の担任に呼び出されて」
「叶の? 三者面談とかではなくてか?」
「ちがう。驚いて。叶、同学年の男を殴り飛ばして、喧嘩して停学になってんの」
「…………勝ったのか?」
「もちろん」
「ならいいだろう」
「ん。勝てば問題はないけどさ。でも理由がね、わからないんだよね」
「そうだな。何もなしに、誰かを殴り飛ばすなんてことはしないだろう。あいつ、俺たちの中でも一番喧嘩嫌いなほうだしな」
「末っ子だからね。あの年の俺ってもっと血気盛んだったような気がする」
「お前はどうだったか知らないが、棗は非常に血気盛んだったときいてるぞ。色々伝説を聞いたからな」
「……それに比べれば叶の行為なんてかわいいもんなんだけど、でもわかんないんだよね。お互い、あんま面識ないらしいんだ。クラスメイトでもないし、部活もちがうし。出身中学も違うし」
「通行人を殴り飛ばしたってことか?」
「まぁ、そんな感じなんだけど……ひっかかることが一つあるんだよね」
「ひっかかること?」
「んー。叶が停学になって、みっちゃんがさ。ごめんなさいって、俺に謝ってくるの」
「……なんであの子が謝るんだ?」
「叶の喧嘩がみっちゃんがらみだからじゃない? 直接、彼女がその場にいたわけじゃないみたいだけど」
「……それはあれか。色恋沙汰とかいうやつか」
「んーどうなんだろうね?」
「違うのか」
「さて、どうだろう。まぁ、最近になって微妙だなって思うのはたしか」
「微妙?」
「こう……目で会話していることが多いような気がする。言葉で会話せずに」
「……ちょっとまて。それ、どっかで聞いた話だな」
「ユトちゃんあたりから聞いたんじゃないの? 俺も朔から聞かされたもん。去年の正月かお盆だったと思うけど。……それで、とりあえず意識して見るようにはしてみたんだよね。そしたら、うん。確かに」
「視線が追ってることには気づいていた」
「ま、普通はそうなるよね。目が離せなくなる。自覚しているかどうかは謎だけど」
「この間、少し戻ったときにも会ったが、綺麗になったな。彼女は」
「いいねぇ。青春だねぇ」
「おい、その台詞、なんか爺臭いからやめろ」
「はいはい。……でもま、この微妙なバランス、いつまで持つんだろうね?」
「持たないと?」
「持たないでしょう。みっちゃんは鈍そうだから、多分なんかないとどこまでもあのまんまっぽい気がするんだけど、叶は、男だよ」
「……あー……」
「思春期の男がさ、すっごい無防備な好きな女の子が目の前に、ぽけっていられたらさ」
「……空腹時に、好物を並べられた部屋にたった一人放り込まれたような感じになるな」
「さて、堪えられるのか堪えられないのか、僕らの弟がどんな感じで彼女を口説いていくのか見ものだよね」
「楽しんでるだろ」
「かなり。音羽は?」
「興味はある。俺たちはあの二人のなれそめを知っているわけだからな」
「喧嘩ばっかり飽きもせず繰り返す、数年を知っているわけだしね」
「見守っておこうじゃないか。俺たちの、末弟の恋の行方」
「すっごい真剣な恋愛ど下手そうだけどね。俺たちに似てね」
「俺たちに似ているは余計だ! お前だけだろ!」
「……いっちばん晩生なのは、多分、君だと思うんだけどなぁ……」


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