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61 あたらしいひと

 妹尾家は奇妙な家だ。閑静な住宅街にある一軒屋。広さはとりたてていうほどでもなく、ガレージに軽自動車とセダンが一台ずつ停まっている。やかましく音を立てる引き戸玄関の周りにはポセインチュアの鉢植え。庭先には四本の物干し竿とちっちゃなガーデニングスペース。朝顔とトマトと茄子と青葉とグラジオラス、ペパーミントが植えられていて、庭をぐるりと囲む生垣はアジサイとからたちと名前も知らぬ低木たち。縁側には盆栽の植木がちょこんと並ぶ。
 とにかく雑多で、けど不思議と調和の取れている家だった。



「……ねぼうした」
 私が青い顔で台所に入ると、ユトちゃんが味噌汁をかき回して笑っていた。
「おはよーございます朔さん。よく眠れました?」
「ねむれた。ねむれすぎてびっくりした」
「よかった」
 私は髪の毛をゴムで一つに纏めながらユトちゃんの横に立った。磯鷲遊。彼女は私の恋人たる隻さんのお父さん、つまり妹尾集さんの援助を受けて大学に通う女の子だった。天涯孤独の身で、妹尾家の居候になったのは彼女が高校生のときのことらしい。色々あったんだろうけど、今は立派に妹尾の家族の一員。大学の下宿先から帰省した彼女は台所を自分の城のように扱い、昨日も私を美味しいごはんでもてなしてくれた。すごくよくできたお嬢さんだ。
「手伝うって言ったのに」
 朝ごはんの仕度を手伝うといったのに、今日はすっかり寝坊してしまった。
「いいんですよ。ゆっくりしてもらって」
「そんなわけにいかないよ。何手伝おうか」
「じゃーそっちにお茶碗あるんでご飯よそってもらっていいですか? さっき皆を蹴り起こしにいったんで、そろそろ来ると思うし」
「け……ったの?」
「それでも起きないと頭に鍋被せてがんがん叩くんです。一度したら学習したみたいで、それやられる前に皆起きてくれるんですよね」
「はぁ」
 さすが妹尾家に普通に馴染めてしまう子だ。やっぱり少し変わってる。
「朔さんも、枕代わったら眠れないっていってたのに、ぐっすり眠れてよかったですね」
「……本当にね」
 私は苦笑した。
「本当に、おどろいた」
 私は枕が代わると眠れない質で、初めてお泊りした家で爆睡するなんて、青天の霹靂だった。しかも一人で眠ったのに。
 妹尾家には棗先輩もいるし、隻さんもいるから遊びに来ることはあったけど、お泊りは今日が初めてだった。隻さんがお酒を飲んで、夜に車出せないから泊まればいいっていう話になったんだと思う。私は歩いて帰るよって言ったんだけど、隻さんは断固拒否し、ユトちゃんと棗先輩が、とまれとまれって合唱するから、仕方なく。
 でも正直、眠れるとは思ってなかったのに、この寝坊っぷりである。
「おはよ、ユトちゃん、朔」
「おはよー棗姉さん」
「おはよう棗先輩」
 エプロン姿で現れたのは棗先輩だった。感謝してもしきれない、私の恩人。
「ご飯できた?」
「うんできたよ」
「盛り付けて。運ぶわ」
「皆は?」
「さっき隻が顔洗ってるの見た」
「おはよ」
 次に顔をだしたのは隻さん。彼は目を細めて台所を見渡すと、いいね、と口笛を吹いた。
「女性が三人。目の保養」
「あら、私もカウントしてくれるなんて思わなかったわよ、隻おにいさま」
「棗におにいさまとかいわれると鳥肌たつからやめて」
「お前の発言の方が鳥肌ものだ」
 隻さんの背後から、次男坊が顔をだした。まだ私にはなじみが薄く、少しだけ身構えてしまう。隻さんと違ってどこか冷たい印象のある彼は、ユトちゃんと同じ年で、名前を音羽君という。彼は眠たげに瞬きつつも、私に目礼した。そのまま裸足の足音を響かせて、隣の居間へと移動していってしまう。
「あいつはー! おはようもないのか!」
 ユトちゃんがソーセージを減らすと息巻いていた。無論、先ほどの音羽君に対して。
「おはよー」
 隻さんの肩ごしに、ぼさぼさの頭のまま顔を覗かせて現れたのは、末っ子の叶くん。彼は人懐こく、私をじっと見つめるとにこりと笑った。
「おはよう朔ねーさん。よく眠れた?」
「うん。眠れました。ありがとう」
「ちょっと叶、ひとのおんなに色目使うのやめて」
「朝からのろけてるとナニを蹴るよ。色呆けんのもうざいからやめてよねー隻」
 ……顔はかわいいのに、口が一番悪いのも叶くんだって、私は昨日の晩に気づいている。ちなみに血の繋がらないユトちゃんを除いて、誰も彼もが超絶美形なのはご覧の通り。家主たる集さんは働いている親族の家に行っていて、今朝は留守だ。昼に帰ってくる予定らしい。
 それぞれアパートに一人住まいしているユトちゃんと音羽くんが戻ってきているのは、お盆のお墓参りの為だった。お昼に集さんと合流し、もうひとりユトちゃんと同じような境遇で妹尾家のひとりとして認められている(そして今は家を出ている)真砂さんを駅へ迎えにいって、隻さんたちのお母さん、緑子さんのお墓を掃除しにいく。
 妹尾家にはいくつかの外してはならない家族行事があって、緑子さんのお墓参りはそのうちの一つだった。
 行事だけじゃない。妹尾家には独特のルールがあって、この家に収まっているときは従わなくてはいけないらしい。そのうち一つが食事は特別な事情がない限り、揃って食事を取ること。特に朝食は不在のときを除いて、席に着いていなければならないらしい。食事当番が必ずたたき起こしにいく。二度寝したければ、ご飯を食べ終わってから眠る。



「棗ぇ、卵焼きとって」
「自分で取りなさいそれぐらい」
「遊! お前ソーセージ減らしただろ!」
「挨拶もちゃんとできないやつにくれてやる肉はないよ」
「おーまーえー」
「はいはーい、音羽も苛々しない。カルシウム足りてないよ」
「隻、お前も牛乳を差し出してくるな!」
「朝から怒鳴り声上げないでよ頭痛い……これだから男所帯は」
「あははは棗の金切り声が一番頭痛くなるけどねっいだ! 暴力反対!」
「あんたもいい加減懲りないわよね、叶……」
 その朝食風景はあまりに騒々しくて、私は驚きからお箸を動かす手が止まっていた。雪ちゃんと華ちゃんとの朝食は比較的静かで、部屋にわんわん声がこんなに反響することはない。朝食時にこんなに大勢の人が一つのテーブルを囲んで、煩いぐらいに話しているっていうのは、なんだか壮観だった。
「朔、食欲ない?」
 私のご飯が減っていないことに気づいた隻さんがそっと訊いてくる。私は首をぷるぷる横に振って、慌ててお味噌汁を啜った。



 朝食の片付けを棗先輩がしている間、私はユトちゃんと一緒に洗濯物を干す。二階では、男の人たちが自分の部屋のお布団をそれぞれ干している。夏の日差しは早朝でも鋭く、私の肌をちりちりと焼いた。けれど高い空に広がる濃い青に、カラフルな洗濯物が翻る様はすがすがしくて、私は物干し竿を命一杯占領するおとこものおんなもの混じる衣類を、不思議な思いで眺めた。



 お昼前に、集さんが帰ってくる。滅多に帰ってこない集さんへの妹尾家兄弟の態度はゾンザイで。名前も呼び捨てだからびっくりした。けれど集さんの命令には誰も逆らおうとはしない。棗先輩も文句いいながら、集さんをちゃんとたてている。
 真砂さんと合流して、お墓に行く間も、その後も、会話の途切れない家族を、私はいつまでも見つめていた。


 ――……遠い昔、同級生の賑やかな輪の中に、入っていけなかった幼い自分を思い出した。


 お墓参りから戻り、お寿司を皆で囲んだ後、辞去しようとした私を隻さんが引き止めた。今日も泊まっていけばいいという。
「いや、さすがに二日連続は悪いよ」
 お客が増えるということは、その分、ユトちゃんの負担が増える。せっかく帰省しているのだから、彼女ものんびりすればいいのに、なぜか忙しく動いてばかりなのだ。
 遠方に住んでいるならともかく、私の家はこの妹尾家の徒歩圏内だし、わざわざ宿泊する必要もない。真砂さんだってお子さんを連れて、もう引き払っているのに。
 隻さんが、苦笑しながら私の背後を指さす。
「ユトちゃん、朔の分の布団敷いてたよ」
「え!?」
 驚きに振り返ると、ちょうどユトちゃんがバスタオルを抱えて現れたところだった。
「あ、朔さーん。お風呂わきましたよ」
 はいどーぞ。これタオルです。一番風呂いっちゃってください。その後、棗姉さんで、私が続きます。え? ヤロー共は後に決まってるじゃないですか。
 あぁとかそうなの、とか生返事しか口に出来ない私に、ユトちゃんはにこにこと笑って、会話を続ける。私は笑顔を張り付けたまま、とりあえず一番風呂を頂戴しに洗面所へ向かった。



 お風呂から上がったあとも、なんだかやけにユトちゃんは私の傍から離れず、一生懸命話しかけてくる。好意を向けられていることはわかるし、苦痛な会話では決してなかったのだけれど、ユトちゃんがことりと寝てしまって私はほっとしてしまった。実は慣れたひととでないとうまく会話できない性質なのだ。ユトちゃんはぽんぽんしゃべってくれるからまだいいけれど、やっぱり気をすり減らすことに変わりない。
 こんなにしゃべる子だったんだなぁと、私は気持ちよさそうに寝息を立てる彼女の頭をそっと撫でた。
 昨日はほとんど会話せずに寝るだけに終わってしまったから、無理に私を引き止めたのは、話し足りなかったってことなのかもしれない。
 私は喉の渇きを覚えてそっと布団を抜け出した。冷蔵庫の中のお茶を、自由に飲んでいいと許可が出ている。冷蔵庫のモーター音が低く唸る台所は、豆電球だけ灯され薄暗い。私は冷蔵庫を開けて、麦茶を出した。朝、ユトちゃんが皆のために大量に作っていたお茶だ。
 それをグラスに汲んで、濡れ縁に出る。日中あれだけ賑やかだった家は、眠りの静けさに包まれている。澄んだ濃紺の夜空に、天の川が薄く筋を作っていた。
 麦茶をちびちび飲みながら、その空をぼんやり見つめていたわたしの背後で、障子がかたりと開いた。
「朔さん?」
 男のひとの低い声に、私の身体は無意識に跳ねた。親に隠れて飲食していたのを、見咎められた子供が示す反応さながらに。
「あ、と……音羽君」
 首にバスタオルをひっかけた風呂上り然とした様で、隻さんの弟さんは首を傾げた。
「眠れないんですか?」
「ううん。喉乾いただけです。これ飲んだらすぐ眠ります」
「そうですか」
 音羽君は納得に首肯して、しばらくその場に佇んでいた。基本は笑顔で他人に接する隻さんや、人当たりよい雰囲気を纏う叶君と比べ、音羽君は見えない壁を他人との間に隔てている。涼しげな目元、すっと通った鼻梁、妹尾家のひとたち独特の、他を圧倒し、惹きつけてやまない整った容姿が、一定の温度を保つ表情のせいで妙に作り物めいて見えた。
 どちらかというと、棗先輩に似ているひとだ。
「となりすわりますか?」
 私がぽんぽんと隣を叩くと、音羽君は、失礼して、と断りを入れて腰を落とした。
「敬語じゃなくていいですよ」
「そう? ……じゃぁお言葉に甘えて」
 音羽君は手に持っていた缶ビールのプルトップを空けた。どうやら彼も風呂上りの一杯を味わう場所を探し求めていたらしい。さして言葉を交わしたこともない男の子と並んで夜風に当たる。なんだか不思議な感じだった。
「……今日は疲れましたか?」
「え?」
「輪に入りにくそうにしていたと思いましてね。……ずっと、びっくりした顔をしていた」
 図星を衝かれ、私は言葉を失ってグラスを握りしめた。麦茶が、とぷ、と揺れて、波紋を作る。音羽君は微笑み、缶の縁に口を付けた。
「遊が心配していました。もしかして、うまくなじめなかったんじゃないかって。ただ戸惑っているだけだろうから少し様子を見たほうがいいだろうと言ったのに……うるさかったでしょう?」
「……ユトちゃん、私をなじませようとして?」
「会話を繰り返して関係を作るっていうのが彼女の持論なんです。悪く思ってやらないでください」
「……思わないわ」
 だから急に傍にいてくれようとしたのだ。懸命に私から話を引き出そうとしてくれた子を、私はいじましく思った。
 そして、彼女のフォローに回るこの子のことも。
「音羽君は、ユトちゃんが大事なのね」
 音羽君は無言だった。代わりに浮かんだ優しげな微笑が、すべての答えだった。
「……音羽君の言うとおりね、ちょっと、戸惑っただけなの。なんかみんなすごく仲良さそうで……どうしたらいいのか、わからなくて」
 私は昔から、賑々しい輪の中に入っていけない子供だった。どうしても、二の足を踏んでしまうのだ。
「この中に入ってもいいのかなって、思ってしまってね……」
 思わず口を突いて出た本音に、私ははっと我に返った。年下の子に愚痴るなんて一体何を考えているんだろう。羞恥心で頬が熱い。
 私を見つめる音羽君の双眸は、星々の薄明かりが映りこみ、とても静謐で、綺麗だった。
「緑子の墓参りは、家族行事なんです」
 音羽君は唐突に、そう切り出した。
「う、うん……」
「逆を言えば、家族以外に立ち入ることの許されない行事なんですよ。そこに貴女は呼ばれたんだ、朔さん。そのことに、もっと自信を持ったらいい」
 目から鱗が落ちるとは、このことをいうのだろう。
 呆然とする私に、音羽君は淡々と続けた。
「慣れるまで時間はかかると思う。俺もそういう性質だからわかります。けど、中に入ってもいいのか、というのは愚問だと思っておいてもらって間違いない。……どうやって会話に入っていいのか、というのも、迷う必要はないかもしれない。どうせ小煩いのがおせっかいを焼いて、貴女の腕を引っ張りますよ」
「小煩いのって……ユトちゃんのこと?」
 私は堪えきれず、つい笑い声をあげる。音羽君は満足そうに頷くと、ビールを飲み干して立ち上がった。
「隻のやつがいい顔で笑うんだ。棗も貴女を大事にしている。俺は貴女を認めていますよ。……だから、焦らず、じっくりうちに馴染んでください」
 兄たちの非常識さ加減に、あまり馴染みすぎるのも考え物ですが、と彼は皮肉を忘れない。私は苦笑すればいいのか、それとも笑い転げればいいのかわからず、ただ小さく頷いた。
「ありがとう。頑張るね」
 音羽君は微笑んだ。柔らかい顔。あぁ、思った通り、棗先輩に似ている。繊細なひとの笑い方だ。
 私は立ち去る彼におやすみなさいの挨拶をして、麦茶を飲み干した。
 グラスにはほんの少ししか残っていなかったのだけれど、身体の隅々まで潤ったような気がした。



「それじゃぁお邪魔しました!」
 翌朝、私は玄関まで見送りに来てくれたユトちゃんたちに、精一杯の笑顔を浮かべた。これから仕事場に顔を出さなければならない隻さんと一緒に、商店街の家に帰る。ユトちゃんと音羽君は、それぞれ地元の友人たちと会ってから新幹線に乗るらしくて、ここで今年はお別れだ。次会うのはきっと年末になる。
「あ、朔ねーさんちょっと待って」
 姿の見えなかった叶君が私を呼び止め、紙袋を握らせた。
「なぁに? これ」
「お菓子。夏ミカンのムース。上にゼリーがのってんの」
「え!? なにそれすごくおいしそう! もらっていいの?」
「うん」
 どこのだろうと思って紙袋の中を見たのだけれど、タッパーの中に綺麗な器と保冷剤が並んでいるだけで、包装紙の類は一切見られない。手作り?
「あれ、これみっちゃんが作ったの?」
「そー。隻と棗と僕の分ってことでパクってきたんだけどさぁ。どうせなら朔ねーさんにあげようと思って」
「みっちゃん?」
 聞きなれない名前に私が首を傾げると、叶君は妙にぶすくれた顔になった。
「朔ねーさんとこの呉服屋の傍に、パン屋あるじゃん」
「商店街入口の製パン所の看板娘だよ」
 隻さんが末っ子の言葉を補足し、私はようやく思い当たった。あぁ、みちるちゃんか。
「彼女、お菓子作りが得意なんだよね」
「で、よく試作品パクってくんの。下手な店のものよりよっぽど美味しいから、食べてみてよ」
「ありがとう……」
 彼女が作ったというお菓子を評する叶君の口ぶりは、すごく誇らしげなのに、その不本意そうな顔は一体何。というか、いつもにこにこしている叶君の、そんな表情を初めて見た。
 私は隻さんの袖口をくいくいと引っ張って、身体を屈めさせた。
「え、叶君とみちるちゃんってどういう関係なの……?」
「一応、幼馴染? でも俺にもよくわからんっつうか見てて面白くはあるんだけどね?」
「ちょっとソコ、何こそこそ話してんの?」
 慌てて直立する私と隻さんに、叶君はこれみよがしにため息を吐いた。
「まぁ、色々あるだろうけどさぁ、ここはねーさんのもうひとつの自分ちだよ。いつでも寄ってよ」
 社交辞令じゃないよ、本気だよ、と、叶君は笑って付け加えた。
「朔ねーさんが来ると棗の機嫌がいいからね」
 にやりと口角を上げる様は、悪戯をたくらむときの隻さんと似ていた。あぁ、次男坊は先輩に、末っ子は隻さんに似ているんだわ。思考をあらぬ方向に飛ばしながら、私は自分がひどく狼狽しているのだと気が付いていた。
 もうひとつの、自分の家。
 妹尾家の皆は、きっと軽々しくそういうことを口にするひとたちではない。けれどその言葉を、私に向けてくれたことがうれしかった。
 叶君も多分、ユトちゃんや音羽君と同じように、私が遠慮を覚えてしまったことを見抜いているのだろう。
「ありがとう」
 私の謝辞に、叶君は満足そうにうなずいて見せる。
 このたった三日間で、妹尾家のひとたちが、うんと近くなったような気がした。



「いいご家族だねぇ」
 商店街へ向かう途中、しみじみ呟いた私に、隻さんは片眉を上げた。
「皆、好き勝手なことばかりしてるけどね」
「意思が強いってことじゃない」
「我が強いっていうんだよ」
「またまた。でも、ばらばらっていうわりには、まとまってて、いいね」
 同意の言葉の代わりに、隻さんは微笑んだ。
「まぁね」
「私も、がんばるね」
 次こそは、隻さんの兄弟たちに変な気遣いをさせてしまわないように。
 私の決意に隻さんは、ほどほどにねと苦笑して、軽く私の瞼に口づけた。



 妹尾家は奇妙な家だ。閑静な住宅街にある一軒屋に雑多なものが詰め込まれている。雑誌で取り上げられるような、統一された洗練さは一切ない。けれど、不思議と調和がとれている。そこで生きるひとたちもまたしかり。
 私も、あの煩雑で、暖かな妹尾の一部になる。
 そう遠くない未来で。