厚い友情(裏切りの帝国)


 ヒノトほどではないが、アリガにも決して少なくない数の手紙が届く。
 そのほとんどは彼女の後見となっている老夫婦からのものだ。学者然とした上品な夫妻で、その孫夫婦ともども、遠路遥々アリガを訪ねて学院に来た折、顔を合わせたことがある。血は繋がっていないが、皆、アリガを案じていて、今も彼女に手紙を書いてよこす。その頻度は、三月に一葉ほどだろうか。
 たまさか、その手紙に混じって、小包が届くことがあった。船での輸送を示す印が打たれたそれを目にした瞬間、アリガの目が喜色に輝き、一日中、否、数日間は上機嫌となる。

「女王様から届いたのか?」
「うん」

 夕食もおざなりに、椅子に腰掛けて嬉々として手紙を読む友人のために、ヒノトは果実水を入れてやった。

「元気そうだって?」
「うん。色々落ち着いてきたみたいだ」

 アリガは手紙を丁寧に畳んで手紙と共に届いた荷物を検分していく。ヒノトの目から見ても非常に精密な細工施された紙用短刀、革の鍵入れ、薔薇の匂い袋、他。小包の中はアリガのための土産物で溢れている。アリガの故郷は技術者たちの国らしく、どの工芸品も目を瞠るほどの出来栄えで、横から覗くヒノトの目も楽しませた。小包の中身は、年々その豊かさを増している。

「ふふ、会いたいなぁ……」

 うっとりと夢見る少女のように呟くアリガを眺めながら、ヒノトは呟いた。

「本当におんし、女王様のこと好きよなぁ……」
「うん。小さい頃から好きだった。私の憧れなんだよね」
「それはもう何度も聞いたよ」
「そうだったっけ?」
「うん。まぁ……よいことよな。こうやって定期的に知らせがくるのは」
「うん。絶対ね、忙しいと思うんだよね。なんでこんなに忙しいのにアリシュエルに手紙を書いてるのかしら、いーわ書いてあげるわ気分転換にとか言いながら書いてくれてるんだよ」
「……それは……そんなにうきうきと解説するようなことか?」
「かわいい人なんだよね、マリア」
「あぁ、うん。そうじゃな」

 適当に返事をしてヒノトは果実水を啜った。年に二度ほど、欠かさず手紙を送ってくる故郷の友人に対して、アリガは他の友人たちが見ればいささか熱心すぎるほどに語っている。
 生返事ばかりするヒノトに、アリガはきょとんと眼を丸めた。

「……どうした? 話は終わりか?」

 ぱたりと途絶えた会話に首を傾げる。ヒノトの問いにアリガは頭を振って否定を示し、頬杖を突いたままにっこりと微笑んだ。

「わたし、ヒノトのことを同じぐらい好きだからね」
「……? なんじゃ藪から棒に」
「だからすねたりしなくていいからね」
「……するか! すねるか!」
「照れなくていいよ?」
「照れとらん!」

 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、夜が更けていく。
 翌日、寝不足でぐったりとなりながら薬学の講習を二人で受け、アリガの話は笑顔で受け答えようとヒノトは心に誓った。
 ただ学院での生活でさみしさを感じることが少なかったのは、偶然が重なって同室となったこの友人のお陰であることは違いなかった。