衝撃の告白(裏切りの帝国)


「あと、こちらに署名を戴きたいのですが」
 スクネは言葉と共に一枚の書類を差し出してきた。気軽に頷きながらそれを受け取り、首をかしげる。
「何の書類?」
「婚姻届です」
「あぁ、そう。わか」
 った、と。
 エイは、皆まで言葉をいうことができなかった。
「……え?」
 署名の手を止めて、絶句しながら部下を見返す。スクネは相変わらず胸中の読みにくい無表情で、背筋を伸ばして佇んでいる。
「……え?」
 もう一度呻くと、スクネは表情を変えぬまま、淡々と言った。
「結婚することにいたしましたので。婚姻届に上官の署名がいることはご存知で?」
「いや、うん。わかるけど。……するの?」
「はい」
「と、いうか、君、恋人いたんだ?」
 部下の私生活に無粋に足を踏み入れる趣味はないが、それでもこれだけ親しく付き合ってきて、彼の浮いた話など耳にしたことがない。
「恋人、という関係だったのかどうかはわからないのですが」
 言葉を濁しながら彼は言った。
「子供ができましたので」
 今度こそ。
 エイは絶句し、さらにその相手が皇后付きの最年少の女官だと聞いて、呆然となる。
 二人の出自が似ているために、比較的よく挨拶を交わすことは知っていたが、かといって二人で過ごしている様子は微塵も感じられなかった。彼の数少ない休暇の際、普通に件の女官は出勤していたし――幼い顔立ちの女官を思い浮かべながら、エイは唸る。
 どこからどう、突っ込めばいいのやら。
 ぎくしゃくと書類に署名をした後、出席した会議で、平静を取り繕うことに実に苦労した。
 とりあえず、宰相の婚儀の準備でくそ忙しいときが出産予定日とあって、もう少し色々と考えるようにと、エイは後々、不本意ながら部下に説教をするはめになったのである。